甚平side




女子に,それも有栖に便所の話なんてしたか無かったけど,仕方ない。

幸いにも,何一つ疑問を抱かずにそう言えばと彼女はそちらに向かった。

時間稼ぎには,成功である。

俺があいつの記憶を頼りにあいつの教室へ入ると,真っ先にそいつと目が合う。

ついよってしまう眉を,俺はいかんいかんと直した。

ここにわざわざ来るのも,ちゃんと顔合わせるのも何気初めてで,向こうもおやと目を丸くする。

わざとらしいにも程があると思った。



「やあ,甚平さんでは無いですか」

「ケッほらみろ,家族以外もぜーんぶ覚えてやんがる。それとも隠す気ゼロなのか?!」



ついさっきまでの俺なら,今この瞬間に間抜けな顔を晒していたことだろう。

それすらに腹が立って,つい怒鳴ってしまう。

あいつの敬語は,確かに特別かもしれないけど。

有栖に向けるそれとは違う。

警戒して,それから単純に俺をおちょくるための道具でしかない。



「隠してますよ,ただ,あなたにはありすに告げ口したって,百害あって一利なし,でしょう? だから何の問題もないんですよ。あ,あなた誰でしたっけ」