「あの子を見舞ってくれる人がいるなら安心だわ。あの子,こんな目に遭って家を離れてまで,私の顔なんてきっと見たくもないだろうもの」
ここで,帰してしまっていいんだろうか。
「あの子,ずっと怒りが収まらないみたいなの,当然よ。たまたま彼の父と話すようになって,事情を知って……そしてまもなく求婚され,私もその人を愛してしまった。彼にとってどんなに耐え難い事だったでしょう。それでも彼,私になんの仕打ちもなしに受け入れて……私が全て悪かったの。代わりに,あの子へ朝の挨拶をしてあげてね」
妻になったのだから,榛名くんだって当然息子だと言いきった彼女を。
私を理由に,帰してしまっていいんだろうか。
「あの……一緒に入りませんか?」
そっとその細く華奢な背中に呼び掛ける。
榛名くんのお義母さんは,堪えるように口へ手を当てたまま
「え?」
と目を丸くして振り返る。
「でも,私じゃ彼の容態を悪くするだけよ」
「そうなりそうなら,直ぐに帰っていただいてもいいんです。一目だけ……だめですか?」
こんなに想っているのに,恥じるだけ恥じて,心で謝り続けて。
それってあんまりだわ。
せめて一目,彼を視界に映したっていいんじゃないかしら。