「あの……榛名くん……ですか?」
「え?」
片手を口に添えて,彼女は驚いたように私を見た。
それだけで,分かってしまう。
この人が,榛名くんのお義母さん……
なら,どうしてそんな人がここに立ち入るのを戸惑うんだろう。
寝ているか見てきてくれだなんて,まるで……
起きていれば帰るとでも言わんばかり……
「あなたは……もしかして昨日一緒にいたと言う……?」
「はい……初めまして,来栖 有栖です。あの……お義母様の事も聞いています」
一方的に知っているなんて良くないと,私は迷った挙げ句に付け足した。
すると目の前の女性はじわりと涙を浮かべる。
「あっあの……!」
そんなつもりで言ったんじゃないんです……!
「ま,まああ。お恥ずかしいわ,義子とは言え,自分の息子の見舞いすらろくに出来ないだなんて……でもあの子がそんなことまで……きっと信頼されているんだわ,とても嬉しいことよ」
ふふと笑った彼女は儚げで。
とても強く美しく見えた。
榛名くんは,この人を否定できなかったんだと。
否定出来る事が1つも見つからなかったから,彼は1人苦しむ事にしたんだと。
どうしよもなく,理解してしまった。