朝,甚平くんは座って読書をする私に,可愛いピンクのチョコレートを渡した。
不思議に思って見上げると,お母さんに怒られた少しあとの子供のように,彼の方は私から目をそらしていた。
「昨日はカッとなって,少し言いすぎました。君にも失礼なことを言いました。もう,三宅榛名について,君の前で悪く言ったりしません。なので,仲直りの印に,どうぞ」
「……まあ! 私こそごめんなさいと言わなくてはいけないのよ,甚平くん。あなたは私を想って言ってくれたんでしょう? でも,そう約束してくれるなら,それ以上に嬉しいことってないの」
私がそう笑うと,甚平くんは複雑そうな顔をして。
やっぱり……とバツの悪い気持ちになる。
甚平くんは,榛名くんを大切に想う気持ちを汲んでくれただけ。
榛名くん自身の見方が変わったわけではないんだわ。
いつか,もし機会があったなら,彼らを引き合わせて,その良さをどれくらいでも語って聞かせるのに。
「じゃあ,それだけだから。ごめんね,来栖さん。ちなみにそのチョコレートは俺のオススメ」
「……ふふ,ありがとう。今度自分でも買ってみるね」
「そうしておくれよ。今日のお昼のお誘いは……やめておくよ。明日もまた考えておくれ」
ニッと笑った彼はいつも通りで,昨日の事なんて引きずってもないように見えて。
私は手を振ったあと,手元のそれをじっと見ると,パクリと口のなかに入れた。