私は,最後まで口を挟まずに聞いた。
最後に,どこか含みなある綺麗な微笑みを見せられて。
突然のことに驚いて,どうしてだろう,胸が高鳴って,私は俯く。
何もかも打ち明けるような榛名くんの,いつも通り丁寧な語りは……
私にはどこか泣いているように切なく聞こえて。
聞きながら,何度も彼の瞳を確認した。
たまに榛名くんの手を握って,要所でありすと私を呼ぶ彼に,何も分からないくせして,胸が痛くなった。
聞いてるよ,まだ私はここにいるよ。
……大丈夫だよ。
今怖いことは,何もないでしょう。
「どんな前提や過程があっても,榛名くんの行動を,私は肯定できないよ」
だって……他人の身も心も,恋心も傷付けたのは,変わりないんでしょう。
「そうだね」
「でも……甚平くんにも言ったけど,榛名くん1人を責めるなんて出来ないよ。ねぇ,榛名くん……お義母さんの事だって,直ぐに受け入れる必要なんて無いと思うな」
あなたの心に母がいて,共に過ごした場所に心の準備もなく他の女がやって来るなんて。
そんなの,お義母さんには関係ないのかもしれないけど,せめてお父さんにくらい,怒鳴り付けてもいいのかもしれない。
きっとそのお義母さんは,榛名くんのそんな気持ちを分かって,いつも罪悪感にかられているのではないかしら。
だから時にお父さんと対立して,涙を流してしまうのね。
それが……逆に榛名くんには耐え難い事だったのね。