もう名前も口にしたくないそのセンセイは,やけに俺の話を真剣に聞いた。

くるひもくるひも,その日から何度も俺の置かれた状況や心情を尋ねた。

気にかけ,心配し,また聞いた。

最初は楽だと思ったし,俺も全て素直に話したけれど。

だけど気付いたんだよありす。

あんまり根掘り葉掘りと尋ねられて,気味が悪く思ったんだ。



『ねぇ──。なんなの? 俺にどうして欲しいの?』



この言葉を発してしまったのが,2つ目の選択ミスだった。

彼女は卒業を控え,そのめくるめく日常の中で,俺と同じような立場に立っていた。

俺の話を聞けば聞くほど同じに思えて,今思うと俺に依存していたらしい。

父親が気持ち悪い。

遠くはなれた場所でとっくに新しく子供をこさえてる母が汚ならしい。

そう言いながらも,その人は俺に触れた。

初めて,ぞわりと栗立つような手付きで,俺の胸に手をついたんだ。

その日に限って,いつも下で存在を感じさせていた2人はどちらもそれぞれ不在だった。

ここから先は,ありすには理解の出来ない怖い話しかもしれないけれど。