『やだな,わざとすっぽかすっていってんじゃないよ。お義母さんも気にしないで。俺はただ,教師をつけて貰うだけだ』
『そんな……ごめんなさい,いいのよまって』
八つ当たりだったと分かってる。
今はもうそんなことしないさ。
その日の記憶はそれだけ。
その後で父親が扉の向こうで義母に怒鳴られて,最後には義母のすすり泣く声が聞こえた。
けれど,1週間立っても実行されない約束に
『ねぇ,まだ?』
と父親をいじめ続けたせいで,家庭教師はきっちりつけられた。
高3だというその女は,ただのバイトのようだった。
俺に教えに来たのに教えることがないと,俺の前でぶつくさ言っては笑う変なひとだった。
俺は飾らない人柄に絆されて,少しだけその人を大事にするようになった。
惚れたんじゃない,恋なんかじゃなかったんだよありす。
ただ,1人の純粋な友達として,先生として,俺は大事にしたんだ。
半年もして,また別の隙が生まれたんだよ。
俺は家族に吐き出せない隙を埋めるために,愚痴を言ったんだ。