「そういう意味じゃないんですけど。でもまあ,そっちの方が都合がいい。ありす,じゃ,俺はどうです?」



ピンっと鼻の付け根にデコピンを食らったような心地がした。

はあ? と言ってしまいそうなところを,何とか押さえる。



「も,もう……冗談言わないでよ。先輩をからかわないの」



何故榛名くんがこんなにも懐いてくれているのか,私には分からない。

寧ろ,いつも飄々としている彼について知っている事など,殆ど無いのだ。

でも,だからと言って軽々とからかわれると,流石に困ってしまう。

私に人の冗談はハードルが高く,恋愛を絡めると余計に上手く流せないのだから。



「な~んて,冗談ですよ」

「分かってるわよ」

「可愛いです,ありす。俺,ありすとはこのままがいいので。あ,でも。あの人のお話はもっとちゃんと断ってくださいね」