走る,ただなにも考えず真っ直ぐ走った。

不意に,死角だった壁から手が伸びて,私の手を掴んだかと思えば。

お腹に手を回して,抱き締めるように引っ張った。



「だっだれ……!」



知らない恐怖に襲われて小さく悲鳴をあげると,次に知っている匂いだと脱力する。

そうだわ,ここって……



「もう! 突然何をするの……! 榛名く……」



寄り強く抱き締められて,私は言葉を失った。

逃がさないように,独り占めするように,強く強く榛名くんは私を抱き締めていた。

いたずらなんかじゃない。

恥ずかしさに身をよじるのも憚るくらい,真面目な気持ちが伝わってくる。



「榛名,く……」

「ありす,庇ってくれて,ありがとうございます。でも,全部ほんとの事で……俺がしたことは間違いだらけだったので,いいですよ」



そうゆうくせに,あなたの声が可哀想に聞こえるから



「私まだ,榛名くんの口から聞いてない。何をどう判断したらいいか分からないよ」



私はお腹に回る腕を,きゅっと握った。

私は私で抱き締められているんだもの,これくらい許してくれなくちゃ。



「……ありす,じゃあ……昨日のベンチに座っても良いですか?」

「……! ええ,緊張するなら,寝っ転がったっていい!」

「……はは,ありすらしいですね」

「そうかな」