「おいっ!!
・・・・・・お前ら何してんだ!」
桜の花びらが舞い散る中、ゆっくり歩いてくる。綺麗な顔の眉間に皺を寄せて、大人気もなく子供相手に威嚇する。彼の気迫に子供達は一目散に逃げ去っていった。
「・・・・・・ったく、俺の嫁に何言ってんだ?
子供だからって、容赦しねぇぞ」
「嫁じゃないでしょ。・・・・・まだ」
「町の奴らにちゃんと説明しようぜ?
鬼の子に接吻されても死なないって。
俺が実演して証明してやるからさ。」
「・・・・・・いいの、このままで」
「ちゃんと説明すれば、さっきみたいに言われることもなくなるのに?俺の命を助けたって知ったら、町のヒーローになれるぞ?」
「綱くんがそばにいてくれるだけでいいの。もう他には何も望まない」
「・・・・・・なんだよそれ、可愛いな」
彼のポツリと囁いた言葉が、風で舞い散る桜の花びらにかき消されて、耳に届かなかった。
「・・・今、なんて?」
振り返って聞き返すと、腕を掴んで引き寄せられた。
触れるだけの優しいキスをする。それだけでは止まらずに、深く甘いキスへと変わっていく。
「・・・・・・んっ、・・・」
何度も角度を変えて唇は奪われ、思わず吐息のような声が漏れてしまう。急に恥ずかしくなり離れようとすると、頭の後ろを手で押さえられて、少し強引に唇を塞がれる。
閉じていた目を薄らと開けると、彼もまた薄く開けていて、妖美を感じる瞳と重なる。
彼が瞼を閉じると同時に塞がれた唇は、逃げることなどできない。恋愛初心者の私は彼のキスに応えることに精一杯だ。
「・・・・・・それもいいかもな。こうやってキス出来るのは、俺だけってことだろ?」
熱を持った唇を離すと悪戯に微笑んだ。彼の表情に私の熱は全て持っていかれる。
つよくて、よわくて、愛しい人
あなたのおかげで、
苦しめられ続けた呪いから解放された
鬼の子の呪い、その真実は、
———私と綱くんの心の中に秘めておく。
道ゆく人に迷惑がられても、罵られようとも、
もう、私は平気だ。
綱くんが生きてそばにいてくれるだけで強くなれる。
みんなのヒーローになんて、ならなくていい。
あなただけのヒーローに、私はなりたい。
あなたが生きていてくれるだけで、
生きてそばにいてくれるだけで、
それ以上はなにも望まない。