俺とコウヘイとタカは反省会と称してサイゼに来ている。
風俗に行った後には反省会をするのが大人の男性だと
どこかのサイトで読んだことがある。
「おまえバカだなぁ。こんな素敵なお姉様との出会いで
名前を聞いてないなんて。
俺なんか『ももたん』『たかくん』と呼び合う中に。くくっ」
タカは今にも悶えそうになりながら回顧している
「おれなんか『あかねちゃん』て呼んで
俺のことは『お兄ちゃん』て呼んでもらったぜ。
妹って最高だな。
結局じょうは相手のことなんて呼んで話してたの?」
コウヘイも大満足な様子である。
「お姉さん......」
「おまえ、くるみちゃんがいるからって遠慮してたのか?」
「最初はそうだったけど途中からは楽しくておまえらみたいに
夢中になっていたよ。
夢中になりすぎて名前聞くの忘れただけ」
「ももたんがおまえのホステスさんのこと
『シルちゃん』って呼んでたぞ」
「シルさんか」
名前がわかってちょっと嬉しくなっている自分に気づく。
「じゃあ、じょうもいい思い出にはなったのか?」
「まあ、年上もちょっといいかなとはおもったけど」
シルさんのかわいい仕草や言葉を思い出して
少し恥ずかしくなってしまった。
「ジョーが浮気心を持っているぞー。
これは今度くるみちゃんに報告だぁ」
タカが笑いながらうれしそうに言う。
「おい、ふざけんなよ。くるみに言うなよ」
「言わねーよ。俺らの株までさがっちゃうじゃん」
「あっ。ごめん。おまえらに謝らなきゃいけないことがある」
「なんだよ。おれのももたんを好きになってしまったのか」
「浮かれすぎだ。タカ」
「シルさんに俺たちが高校生ってばれた」
「はぁ!!おまえマジか?」
「まじ……」
「おれら補導されたりしないのか」
「シルさんが内緒にしててあげるって言ってくれたから
いまのところは大丈夫だと思う」
「シルさんがももたんやあかねちゃんに言ったら
次はばれるじゃん」
「たぶん、大丈夫。言わない気がする」
「他の人に言わないって言ってくれたの?」
「いや、そうはいってないけど。あの人は言わない気がする」
俺はなぜかそんな気がしていた。
他のホステスさんと違ってそういうことを
笑って言いふらすような人に見えなかった
「じょう、それは脳天気すぎ。
女の人は噂話やそういういけない話は
みんなで共有する生き物だぜ」
「まじかぁ。もう一度夢の時間を過ごしに行きたかったのに...
これじゃ、行くにいけないじゃん」
「ごめん......」
「おれは捕まっても良いから『ももたん』に会いに行くぞ」
「よし、のった!おれは妹の『あかねちゃん』の面倒を見に行くぞ」
「いやいや、おまえら。行くのは一回だけって言ってたじゃん」
「なんだ、じょう。おまえはシルさんに会いたくないのか」
「おれももう一回くらい話してみたいけど......」
くるみ以外の女性で心がひかれたのは初めてだった。
でもそれはそんなにおおきな想いではなかった。
少し気になる程度のお姉さん。そんな程度のはずだった。
「よし!もう一回お金貯めて行くぞ。おまえら」
気づいたらもうすぐ23時だった。
そのキャバクラは俺たちが住んでいるところからは
一駅離れた繁華街にあった。
サイゼもその近くにある。
タカとコウヘイは電車に乗って先に帰った。
俺は1人歩いて帰ることにした。
夜はまだ少し肌寒いけど
俺はなぜか春の暖かさが近づいてきている気がして
歩いて家まで帰りたくなった。
昔から散歩が好きだった。
知らない道を歩くのが好きだった。
一番好きなのは昼間、快晴の中、
知らない街を歩くことだ。
なんか今日は夜でも知らない街を歩きたくなった。
「たのしかったなぁ」
ひとり小声でつぶやく。
おれはわかっている。
楽しくてそれをもう少し堪能したくて
歩いていることを。
お姉さんの人差し指が鼻に触れた瞬間
時が止まって鼓動だけが聞こえた気がした。
お店の中はアップテンポな音楽が
流れているにもかかわらず
ピタッと音が止まり、
お姉さんと二人だけの空間になったような気分だった。
目の前にまっすぐに進む道と坂に上がっていく道があった。
まっすぐすすむと自分住んでいる駅の方へと繋がっている。
(タカとコウヘイはもう家に着いたかな)
(くるみはぜったいもう寝てる...)
(じんのもご飯食べてちゃんと寝てるかな)
歩きながらもまっすぐな道を眺めてそう考えてしまう。
坂道を上がっていくと昔開発されたにもかかわらず
『ニュータウン』と名付けられた行ったことのない団地に行く。
「今日は遠回りをして帰ろうかな」
みんながいる方ではなく、誰もいない行ったことのない方へ
行きたくなってしまった。
(まだちょっとこうふんしてるのかな?おれ)
いつもと違う行動をとる自分に少し照れくささを感じながら
坂道を上り始める。
最寄駅に向かうまっすぐな道を見下ろせるくらい
坂道を上がって行った。
まっすぐな道は上から見ると煌々と灯りに照らされながら
続いていく。
坂道は上がれば上がるほど灯りは減っていく。
(暗くなってきたなぁ……)
そう思いながら歩いていると
平らな道が出てきた。
その奥には廃墟に見えてしまう団地が連なっている。
ニュータウンというのにその団地は古くて人が住んでいるのかわからないと思うくらい静かで暗い様子を醸し出していた。
カーテン越しににまだ照明がついている家もあれば、
カーテンなんてお構いなしに全開で
部屋の中が丸見えの家もある。
空き家の部屋も多いのだろう。
照明がついている家があっても団地の部屋数に対して
かなり少なく、団地そのものは暗い雰囲気だ。
星空の邪魔をしない明るさだ。
「こういうところだと下には繁華街の夜景が綺麗に見えて
上には綺麗な星空が見えるのだろうなぁ」
じょうは1人の時間が結構好きだ。
ロマンチストではないけど、
屋上や星空の見える誰もいない場所があると
嬉しくなってしまう。
1番苦手なのは夜の海だ。
すべてを飲み込みそうな広大な夜の海には抗えない。
夜の海の浜辺だけは恐ろしい。
1人でもみんなで行くのも怖いと思ってしまう。
いい場所を見つけたと思った反動で
怖い場所を思い出してしまった。
「怖いこと考えちゃったな。
せっかくここまできたし、
もうちょっと上まで上がっていこう」
団地から2〜300m離れたところに小高い丘が見えた。
(おっ。あそこなら見晴らし良さそうだ。
行ってみよう)
この小高い丘は、この団地が作られた時に
見晴らしがいい場所として作られた感が満載だった。
ちょっとした団地の公園みたいになっているだろうなと
想像する。
そして何十年も経って団地の人も減り、
劣化して寂れた公園になって誰も寄り付かなくなったんだろうなと想像しながらその小高い丘を登り始める。
上に上がるには一つの階段しか見当たらない。
ワクワクしながら上がり続ける。
階段を上がり続けると滑り台とブランコの上の方が
見え始める。
「ほらな、思ったとおり公園風になってた」
想像通りだったから1人で満足げになっている。
「よし、誰からも遊んでもらえない公園を
おれが遊んでやろう」
小言を言いながら少しワクワクしている。
最後は階段を一段飛ばしで駆け上がる。
ふわふわした気持ちと感覚で
階段を上がり切った時に無意識に言葉が出てしまう。
「シルさん」
大きくもなく小さくもなく清々しい声を俺は発する。
「はい……」
独り言のはずだったのに返事があった……
風俗に行った後には反省会をするのが大人の男性だと
どこかのサイトで読んだことがある。
「おまえバカだなぁ。こんな素敵なお姉様との出会いで
名前を聞いてないなんて。
俺なんか『ももたん』『たかくん』と呼び合う中に。くくっ」
タカは今にも悶えそうになりながら回顧している
「おれなんか『あかねちゃん』て呼んで
俺のことは『お兄ちゃん』て呼んでもらったぜ。
妹って最高だな。
結局じょうは相手のことなんて呼んで話してたの?」
コウヘイも大満足な様子である。
「お姉さん......」
「おまえ、くるみちゃんがいるからって遠慮してたのか?」
「最初はそうだったけど途中からは楽しくておまえらみたいに
夢中になっていたよ。
夢中になりすぎて名前聞くの忘れただけ」
「ももたんがおまえのホステスさんのこと
『シルちゃん』って呼んでたぞ」
「シルさんか」
名前がわかってちょっと嬉しくなっている自分に気づく。
「じゃあ、じょうもいい思い出にはなったのか?」
「まあ、年上もちょっといいかなとはおもったけど」
シルさんのかわいい仕草や言葉を思い出して
少し恥ずかしくなってしまった。
「ジョーが浮気心を持っているぞー。
これは今度くるみちゃんに報告だぁ」
タカが笑いながらうれしそうに言う。
「おい、ふざけんなよ。くるみに言うなよ」
「言わねーよ。俺らの株までさがっちゃうじゃん」
「あっ。ごめん。おまえらに謝らなきゃいけないことがある」
「なんだよ。おれのももたんを好きになってしまったのか」
「浮かれすぎだ。タカ」
「シルさんに俺たちが高校生ってばれた」
「はぁ!!おまえマジか?」
「まじ……」
「おれら補導されたりしないのか」
「シルさんが内緒にしててあげるって言ってくれたから
いまのところは大丈夫だと思う」
「シルさんがももたんやあかねちゃんに言ったら
次はばれるじゃん」
「たぶん、大丈夫。言わない気がする」
「他の人に言わないって言ってくれたの?」
「いや、そうはいってないけど。あの人は言わない気がする」
俺はなぜかそんな気がしていた。
他のホステスさんと違ってそういうことを
笑って言いふらすような人に見えなかった
「じょう、それは脳天気すぎ。
女の人は噂話やそういういけない話は
みんなで共有する生き物だぜ」
「まじかぁ。もう一度夢の時間を過ごしに行きたかったのに...
これじゃ、行くにいけないじゃん」
「ごめん......」
「おれは捕まっても良いから『ももたん』に会いに行くぞ」
「よし、のった!おれは妹の『あかねちゃん』の面倒を見に行くぞ」
「いやいや、おまえら。行くのは一回だけって言ってたじゃん」
「なんだ、じょう。おまえはシルさんに会いたくないのか」
「おれももう一回くらい話してみたいけど......」
くるみ以外の女性で心がひかれたのは初めてだった。
でもそれはそんなにおおきな想いではなかった。
少し気になる程度のお姉さん。そんな程度のはずだった。
「よし!もう一回お金貯めて行くぞ。おまえら」
気づいたらもうすぐ23時だった。
そのキャバクラは俺たちが住んでいるところからは
一駅離れた繁華街にあった。
サイゼもその近くにある。
タカとコウヘイは電車に乗って先に帰った。
俺は1人歩いて帰ることにした。
夜はまだ少し肌寒いけど
俺はなぜか春の暖かさが近づいてきている気がして
歩いて家まで帰りたくなった。
昔から散歩が好きだった。
知らない道を歩くのが好きだった。
一番好きなのは昼間、快晴の中、
知らない街を歩くことだ。
なんか今日は夜でも知らない街を歩きたくなった。
「たのしかったなぁ」
ひとり小声でつぶやく。
おれはわかっている。
楽しくてそれをもう少し堪能したくて
歩いていることを。
お姉さんの人差し指が鼻に触れた瞬間
時が止まって鼓動だけが聞こえた気がした。
お店の中はアップテンポな音楽が
流れているにもかかわらず
ピタッと音が止まり、
お姉さんと二人だけの空間になったような気分だった。
目の前にまっすぐに進む道と坂に上がっていく道があった。
まっすぐすすむと自分住んでいる駅の方へと繋がっている。
(タカとコウヘイはもう家に着いたかな)
(くるみはぜったいもう寝てる...)
(じんのもご飯食べてちゃんと寝てるかな)
歩きながらもまっすぐな道を眺めてそう考えてしまう。
坂道を上がっていくと昔開発されたにもかかわらず
『ニュータウン』と名付けられた行ったことのない団地に行く。
「今日は遠回りをして帰ろうかな」
みんながいる方ではなく、誰もいない行ったことのない方へ
行きたくなってしまった。
(まだちょっとこうふんしてるのかな?おれ)
いつもと違う行動をとる自分に少し照れくささを感じながら
坂道を上り始める。
最寄駅に向かうまっすぐな道を見下ろせるくらい
坂道を上がって行った。
まっすぐな道は上から見ると煌々と灯りに照らされながら
続いていく。
坂道は上がれば上がるほど灯りは減っていく。
(暗くなってきたなぁ……)
そう思いながら歩いていると
平らな道が出てきた。
その奥には廃墟に見えてしまう団地が連なっている。
ニュータウンというのにその団地は古くて人が住んでいるのかわからないと思うくらい静かで暗い様子を醸し出していた。
カーテン越しににまだ照明がついている家もあれば、
カーテンなんてお構いなしに全開で
部屋の中が丸見えの家もある。
空き家の部屋も多いのだろう。
照明がついている家があっても団地の部屋数に対して
かなり少なく、団地そのものは暗い雰囲気だ。
星空の邪魔をしない明るさだ。
「こういうところだと下には繁華街の夜景が綺麗に見えて
上には綺麗な星空が見えるのだろうなぁ」
じょうは1人の時間が結構好きだ。
ロマンチストではないけど、
屋上や星空の見える誰もいない場所があると
嬉しくなってしまう。
1番苦手なのは夜の海だ。
すべてを飲み込みそうな広大な夜の海には抗えない。
夜の海の浜辺だけは恐ろしい。
1人でもみんなで行くのも怖いと思ってしまう。
いい場所を見つけたと思った反動で
怖い場所を思い出してしまった。
「怖いこと考えちゃったな。
せっかくここまできたし、
もうちょっと上まで上がっていこう」
団地から2〜300m離れたところに小高い丘が見えた。
(おっ。あそこなら見晴らし良さそうだ。
行ってみよう)
この小高い丘は、この団地が作られた時に
見晴らしがいい場所として作られた感が満載だった。
ちょっとした団地の公園みたいになっているだろうなと
想像する。
そして何十年も経って団地の人も減り、
劣化して寂れた公園になって誰も寄り付かなくなったんだろうなと想像しながらその小高い丘を登り始める。
上に上がるには一つの階段しか見当たらない。
ワクワクしながら上がり続ける。
階段を上がり続けると滑り台とブランコの上の方が
見え始める。
「ほらな、思ったとおり公園風になってた」
想像通りだったから1人で満足げになっている。
「よし、誰からも遊んでもらえない公園を
おれが遊んでやろう」
小言を言いながら少しワクワクしている。
最後は階段を一段飛ばしで駆け上がる。
ふわふわした気持ちと感覚で
階段を上がり切った時に無意識に言葉が出てしまう。
「シルさん」
大きくもなく小さくもなく清々しい声を俺は発する。
「はい……」
独り言のはずだったのに返事があった……