「じゃあ、つぎはくるみちゃん」
杏子先生が促す。

「私も工藤さんと近い境遇かもしれません。
 両親は亡くなっています。
 私は一人っ子で両親にも身寄りがいなかったため
 小学生の時に施設に預けられました。
 そこで今もお世話になっています」

「あなたも両親がいないの?」
未知さんが驚いて確認する。

「はい、事件に巻き込まれて亡くなりました」

「えっ!病気で亡くなったと思ってた」
俺も驚く。くるみの両親のことを詳しく知らなかった。

「兄弟はいないの?」
杏子先生が割って入る。

「はい、義理の姉がいるらしいです」

「いるらしい?」
未知さんが問いかける

「私の父は再婚で私が生まれました。再婚する前の前の奥さん
 との間にも子供が1人女の子がいたと聞いています」

「会ったことはないの?」

「はい、会ったことはないです。前の奥さんのことも
 よく知らないです」

「義姉のことは気にならない?」

「どちらかと言うと心配しています。
 前の奥さんの再婚相手の夫が
 ひどい人だったのは知っているので
 そのせいで辛くないかなと」

「くるみちゃんは優しい子だね」
杏子先生は優しい眼差しでくるみを見つめる。

「私は施設にお世話になっているので
 高校を卒業したら働いて自立しようと思っています」

「大学には行きたくないの?
 くるみちゃん、成績もいつもトップじゃない」

「行きたいんですがお金もかかるので
 やめておこうかと思っています」

「行きたいなら絶対行ったほうがいいよ。
 今から行かない選択肢は持たないで。
 先生もなにか案を考えるから」

「ありがとうございます。
 でも現実問題、厳しいと思っています。
 私には工藤さんみたいに
 お姉ちゃんがいるわけでもないですし」

「そんなことないよ。義理のお姉さんがいるよ。
 きっとなんとかしてくれる。根拠はないけど………」

「先生、根拠ないんですか?
 適当なこと言わないでくださいよぉ。
 くるみがかわいそうだよ」
おれは相変わらずな杏子先生にツッコミを入れる。

「ごめんごめん、悪気はなかったのよ。
 私、くるみちゃんのこと好きだから
 苦労して欲しくないなって思って」

「くるみさんは将来の夢は?」
未知さんはくるみに興味を持ったようだ。

「わたしはいいお嫁さんになって
 温かい家庭を作ることかな」

「あらっ、素敵ね。くるみさんは彼氏はいるの?」

未知さんから気まずい質問が投げかけられる。

「この前別れたばかりです」

「振ったの?」

「いや、振られました」

「ごめん………
 でもあなたが付き合ってたぐらいだから
 いい彼氏だったんだろうね」

「はい。すごく好きでした」

「こんな素敵な女性と別れるなんて
 彼氏も見る目がないわね。
 あなたを傷つけるなんてその彼氏と会ったら
 私が平手打ちしてあげるから」

(もう平手打ちされてます)
俺は気まずい思いをしながらそう思うが
隣で杏子先生もバツが悪そうにしている。

「でもその彼氏はいつかまた私に振り向いてくれると
 信じてます。それまで気長に待ちます」

「いい子ね。でも待ってるだけじゃ、泥棒猫や
 小悪魔女子が彼を奪っていくかもしれないから
 気をつけてね」

未知さんは俺とくるみの関係を知らないとはいえ、
さすがにそろそろ俺が限界になってきた。

「工藤さん、くるみも困ってますから
 そろそろ次の話題にいきましょう」

「じゃ、最後は藍原くん」