「それじゃあ、親睦を深めると言うことで
 今日のメインイベント!部員の過去を聞こう!
 を開催します」

杏子先生は楽しそうに開会宣言をする。

「では部長のみっちーからお願いしまーす」

「特に話すことはありません」

「相変わらずクールなんだから、みっちーは。
 では家族構成を教えてください」

「わかりました。
 私は姉と2人暮らし。
 父母は私が中学生の時に交通事故で亡くしました。
 それからは姉と2人で生活しています」

俺とくるみは息を飲み込む。
まさか未知さんにそんな生い立ちがあったとは。

「言いにくいこと言わせてしまってすいません」
俺は謝った。

「いいの。気にしなくて。誰にでも過去になにかはあるわ」

「ありがとうございます。
 工藤さんはどうして文芸部に入ったんですか?」

「私は将来小説家になるの。
 わたしはならないといけないの。
 姉は綺麗で頭も良くていい大学にいけたはずなの。
 でも両親が亡くなって姉は大学を諦めて
 妹の私のために働き始めたの。
 今も無理して働いてるの。
 だから私は文芸部で小説を書き続けて
 大学に入って小説の勉強して作家になるの」

ほんの少し未知さんの顔には感情が表れていた。

「いいお姉さんでしょう。妹の夢のために学費を稼ぐ
 わかる!その姉心!
 でもね、みっちー、気合い入れすぎないで。
 姉というものは見返りは求めないものなの。
 妹が幸せに過ごしてくれたらそれだけで姉も幸せなの」

杏子先生は熱がこもっている。
杏子先生にも妹がいるんだろうなーと想像できる。

「工藤さんはどうして小説家を目指そうと思ったんですか?」

「それは小学生の時に家族でよく星空を見に行ってたの。
 その景色を見ながらパパと一緒に見るのが好きだったの。
 小学生の時にそのことを作文にしたら学校で
 金賞をとったの。作文コンクールにも応募したわ。
 それも大賞をとったの」

「受賞したのがきっかけだったんですね」

「それもあるけど、それよりもきっかけになったのは
 お姉ちゃんから『家族の思い出を文章なのに
 その場にいるような情景を思い浮かべることができる』
 ってすごいって褒められたの。
 その時に将来作家になったらってお姉ちゃんに
 言われたのが1番のきっかけ。
 そしてパパとママが亡くなった時のことも書いたの。
 姉から『パパとママがここにいるように感じる。
 あなたの才能だから書き続けて』って言われたの。
 それから文章を書くようになって、いまにいたるの」

「工藤さんは家族のために小説家になろうと
 思われたんですね。これからも応援しますね」
おれは未知さんの小説を読んでみたいと思った。

「お姉ちゃんはうちの高校の卒業生だったりするの?」

「はい。でも先生とはかぶっていないです」

「いまは何してるの?」

「昼の仕事も夜の仕事も色々転々としています」

「だからみっちーが家事やってるのね。
 それで料理が上手なんだ」

「料理がうまいかどうかはわかりませんが
 姉が働いてくれたいる分、私は家のことを
 全部したいんです」

「なんか姉妹2人で生活してるって相原くん家も
 兄妹2人だから生活環境が似てるね」

「たしかにそうですね。似た境遇ですね」

「工藤さんのところと相原くんのところ、
 一緒に住んじゃえばいいのに。お互い分担できるしね」
杏子先生は冗談ぽく言う。

「人の下着を盗む人とは同居できません」
未知さんはスパッと言い切る。

そう言われると少し反抗したくなるのも男心だ。

「あんな美味しい料理が食べられるなら
 ぜひ同居したいです」

「!!」
未知さんは少しピクっとして褒められたことが恥ずかしそうに見えた。それをかき消すかのように未知さんも反抗する。

「わたしもこんな大きな家なら快適でしょうから
 住んでみたいわ。今の家はボロアパートなので」

「はーい。冗談はそのくらいにして次にいきましょう」

珍しくくるみが話に割り込んできて遮る。
本当に同居されたら困ると言うくるみの不安が割り込むと言う
選択をさせた。