その日は午前中から青人さんと会うことになっていた。
例の偽装恋人関係について、詳しく話を詰めるため。
待ち合わせ場所に着き、一応「着きました」とメールを送った。
「お姉さん、一人ですか?」
突然知らない男性に声をかけられた。
「今はそうですが…」
「こんなにかわいい人、初めて見ました。良かったら連絡先、交換しない?」
「人を待っているので」
「じゃあその人が来るまで一緒に話そうよ」
…これは、舞ちゃんがよく言うナンパというやつ?
困ったな、と思っていたら。
「永美里、お待たせ」
突然目の前からキラキラオーラを放つ、ものすごいイケメンが真っ直ぐ私の方を見て歩いてきた。
…こちら、一体どなた?
「彼女は俺の連れですが、何か?」
「あ、いや…」
ナンパは引き攣った笑みを浮かべ、そそくさと逃げて行った。
「すみません、遅くなりました」
「どちら様ですか?」
「え?俺です、青人ですよ」
えっ…、びっくりしすぎて私は何度も彼の顔を見てしまった。
美容院では分厚い瓶底メガネをかけていたから、素顔を知らなかった。
まさかこんなにイケメンだったなんて。
「…ああ、昨日はメガネでしたね。すみません、あれは伊達なんです。
以前別の店に勤めていた時、色々あってから今の店ではかけるようにしてるんです」