「縁談、ですか?」
「そうだよ、永美里。相手は誰だと思う?
虎橋グループの副社長だ。あの虎橋グループの副社長夫人、いや次期社長夫人になるんだよ!」
伯母は興奮気味に話していたが、私は虎橋グループの副社長ってどんな方だっけ?と自分の記憶を思い起こしていた。
…ああ、そうそう。
うちの百貨店に視察に来られた際、何故か美容部員の私が駆り出されて、ご案内して差し上げたっけ。
何故か妙に距離が近くて、おかしな方だった。
「お前の両親が死んでから、育ててやった恩を返す時がようやくきたんだ。
永美里、わかっているね?」
伯母はつまり、こう言いたいのだ。
亡くなった両親の代わりに私を育てた恩返しとして、好きでもない男性と結婚しろと。
拒否権など、私にはないのだと。