「お前が本気で俺を好きになるまで言わないつもりだった」



「なっ…!私はずっと本気だったのに…」




「結婚しようだの婚約者だの冗談混じりに言ってる奴の好きなんて信じられるか」


「いひゃいでふごめんなはい(痛いですごめんなさい)」




頬の肉をムニっと引っ張る棗。




その様子はとてもさっきキスしてきた人には思えない。



キス、そうか。私さっき棗と…







「……っ、キスした…!?」

「は、遅」






この距離で時差なんかないだろと指摘されるけど、そこじゃないんだよ。



あの棗と、この私が、キスを?




そんなことが起きるなんて10分前の私は想像もしてなかった。

第一棗が私のことを好きなんて…好きなんて…





「棗…」



「なに」



「…1回でいいから、好きって言って欲しい…です」





自分で言って恥ずかしくなって目を逸らす。


でも棗のカッターシャツの袖部分を指で軽くつまんで引っ張った。





「…っ、お前ほんとになんなの」



「えっ、なんなのってなんなの!?やっぱり贅沢ですか!?欲出しすぎ!?」

「……好きだよ、バカ」




棗はそう言って、もう一度触れるだけのキスをした。


そしてどこか不機嫌そうな顔で私の頭を優しく撫でる。