「……すき」






棗が止まった。




私の絞り出した蚊の鳴くような細い声が、聞こえていたのかどうかは分からない。



泣きながら座り込む私は視界が滲んで棗の姿を目で追えなくなってしまった。





棗がふたたび近づいてきていることに気づいたのは数十秒後。


気づけば私の目の前にしゃがんでいて、再び私の涙を指ですくった。





「そろそろ俺も限界なんだけど」



「……え」





止まらない涙を棗は笑いながら拭う。



棗の自然な笑顔を見れたのは久しぶりで、この数日会えなかった日々を埋めてくれたみたいだった。







「なぁ、キスしていい?」









「……はぇ?」


「ていうか、ごめん。する」






唇を熱い温度で奪われた。




思考停止の私がことを理解するのにはまた数十秒かかったのであった。





棗の長い腕が首に回り、ため息とともに体重が少し乗せられる。



棗に抱きしめられたことなんてない私は今の状況を整理することで精一杯だった。