「歌でも詠むかのう」

 どこからか筆を取り出した皇子は、手に持っていた木簡に文字を書き始めた。漢字だということはわかるけれど、私には読めない。

「……むむ」

 時折、首を傾げ悩んだり。時折、頷き笑ったり。目の前で、私からしたら遥か遠い過去の人が生きている。

 不思議。飛鳥時代なんてずっと昔のことで全てが不確かなものだと思っていた。だけど、今は確かに存在している。

 もしかしたら皇子のことも、史実には載っていたかもしれない。だけど、私は関係ないと知ろうともしなかった。