「携帯型の電話だよ。便利だから持っていた方がいいよ?」

「……ケイタイ。……ガタノ。……デンワ?」

 全てがカタカナの発音に聞こえるのは、気のせいだろうか。

「……さすがに、電話はわかるよね?」

 恐る恐る尋ねると、彼は首を横に振る。

 嘘でしょ!?まさかここは、電話線も引かれていないわけ!?どんだけ田舎!?

 いや、今のご時世は田舎だって電話線はある。

 とにかく電話がないとなったら、麻美との連絡手段はない。

「やはり兎の化身は、可笑しな物を持っているのだな」

 ケラケラと笑う彼を前に、本気で泣きたくなってきた。

「……化身じゃなくて、私の名前は坂口優花」

「な、何という!」

 今度は大袈裟に仰け反った彼は、目を忙しなくパチクリとさせる。

「そなた、姓があるのか?」

「は?」

「姓があるとは、身分の高い者なのだな。どの者に遣えているのだ?」

「だから、何言ってるのかわからないから!」

 ダメだ。段々と、イライラしてきた。会話もいまいち通じないし携帯は壊れているし電話はないし。もうどうしていいかわからない。