「はて、兎の化身は何故ここにおるのだ?」

 彼は至って真面目な顔をして、私の背中のフードについた耳を弄っている。

「紀伊国から来たと言っておったが、そなたは空から降ってきたぞ?」

「え!?」

 新たなる新事実に、思わず縁側から滑り落ちる。

「この目でしかと見た。そなたが落ちてくるところを」

 ま、待って?
 空から私が墜ちて来た!?
そんなことがあるはずない。あるはずないのだけれど、彼の目を見ればわかる。

 だけど、私自身にそんな記憶はない。

「月が出るまでには、まだ時間があるぞ?」

「つ、月?」

 突拍子もない発言に、思わず声が裏返る。だけど彼は、相変わらず真面目な顔をしながら言った。

「月で兎は、餅をついているであろう? 月の出ている刻ならば、墜ちてきても仕方がないが」

 私は、絶句する。
 月で兔が餅つきなんて、発想がメルヘンすぎる!確かに男の子のわりには色白で可愛い顔をしているけれど、年齢は私と同じか少し上に見える。さすがにこの歳でそれは痛い。

 私だって、昔はメルヘン思考だったけれど幼稚園の時にサンタと同時に卒業をした。と、なると彼はまだサンタも信じているのだろうか。