しかし、これでやっとお互いの言葉が通じなかった理由がわかった。彼は、昔の言葉を話している。

 だけどもしここが大阪だとしたら、和歌山県からは歩いて半日はかかるだろう。

 それは私の中から、半日分の記憶がないということになる。しかし、私が自分の意思で大阪に来たなんてありえない。

 だって藤白神社から家に帰りたいとは願っていたけれど、大阪に行きたいなんて望んではいなかった。

 ……それなら、まさか誘拐?

「これは、何だ?」

 嫌な想像をして冷や汗を流す私の腕を、青年が指差す。

「……時計だけど」

 そう言って、視線を落とすと何故かグルグルとせわしなく回る時計の針を呆然と見つめる。

「……どうなってるのよ」

「トケイ? それは何に使う?」

 戸惑う私を余所に青年はのほほんとした口調で、何の変哲もない腕時計を不思議そうに覗き込む。

 ……まさか、この人は時計を知らないの?