しかし、彼にはどうして和歌山県では通じなかったのだろう。紀伊国は、昔の呼び方だ……。って、そうなると!

「ねえ! もう一度、この場所がどこか教えてくれない!?」

 彼の両肩を掴むと、細い肩がビクッと跳ね上がる。そして戸惑いで揺れる瞳を見つめながら、ふと思う。

 ……あれ?この人、どこかで会ったことがあるような。

「ナニワノナガラノトヨサキノミヤ」

 そんなことより、私は彼の言葉に集中する。昔は何故か紀伊国と書いてキイノクニと読むように、間に「ノ」を入れることは知っている。

 そうなると「ナニワ」「ナガラ」「トヨサキ」「ミヤ」と、なるのだろう。ならば……。

「……ナニワって、まさか難波!? 大阪の!?」

「オオサカ? ……確かに難波だが、セッツノクニだ」

 やはり、ここは難波。そして彼の言っているセッツノクニとは、摂津国だ。

 いきなり言われてもわからなかったけれど、昔は大阪とか兵庫をそんな風に呼んでいた。

 でも、ナガラ、トヨサキがわからない。

 ミヤは、まさか宮!?宮殿という意味の!?