「結局、あの後汚名返上とはいかなかったね」

ホテルから学校への帰り道、璃玖は隼人と歩いていた。

「でも、間違えたのは最初の紅茶の件だけで、あとは大きなミスもなかったでしょう?」

「でもお茶の香りを言葉で表現するのも出来なかったし、カップをお皿に戻すときにぶつかる音が鳴っちゃったよ。カップの音させたのなんて、テーブルで私一人だったもんなあ」

「初めてのお茶会ですから、仕方ありません。あの部屋にいらっしゃった他のお嬢さまたちは、去年一年間で何度もお茶会を経験してますから、璃玖お嬢さまと違って当然です」

「そうかもね。でも早く隼人が恥ずかしくないようなお嬢さまにならないとね」

あはは、なんて笑いながら、頭は別のことでいっぱいだった。

玲子さまとはどうしてペアを解消したの? 玲子さまが解消を申し出た? それとも、隼人が?

ペアを解消するときは、恋愛関係になった時だって言うのは、編入したばかりの璃玖でも知っている。もし隼人がペアの解消を申し出たんだったら、……今、脂汗をかいている子の心臓はどうしたらいい?

「は、はや……」

璃玖が隼人を呼ぼうとした、その時。

「璃玖さま」

静かな声が、背後から聞こえた。振り向くとそこには、玲子が立っていた。玲子は切なそうな目をしてこちらを見て、すこし隼人を貸してくれないか、と言った。さっき助けてもらったこともあって、嫌だなんて言えなかった。

「あ……、うん、どうぞ……」

「ありがとうございます、璃玖さま。直ぐに済みますので……」

会釈と共に隼人を連れて玲子が皇帝へ姿を消す。璃玖はいけないと思いつつ、後を追ってしまった。