その3
ケイコ



間もなくして、矢吹先輩が部室に戻ってきた

「…”大体”は済んだかな?」

「はい…」

私を含め3人の口から揃っての返事となり、妙にリズミックな響きになった

はは、先輩、苦笑いしてるし…

「じゃあ、あなたたち二人はこれでいいわ。テツヤにも話は終わったって伝えておくのよ」

二人は返事をした後、矢吹先輩に頭を下げ、部室を出て行ったわ


...



部室内では矢吹先輩と私の二人になった

お互い椅子に腰かけ、テーブルを挟んで正面を向いてる

「横田さん、私が目を光らせてながら今回は面目ないわ。申し訳ない気持ちでいっぱいよ…」

先輩はやるせないというか、悔しそうな表情を浮かべていたわ

「こちらこそ、先輩がせっかく忠告してくれたのに、私、とんだ鈍感でした。母からもさんざん言われてましたし、多美にも…。今回のことは自分が招いたことです。ご心配かけてすいませんでした。さっきは二人の段取りまで気を使ってくれて…」

「全くあなたって人は…。毎回感心するわ。それで、テツヤとのこと、本当にいいの?野暮なこと言うようだけど、あなた…、やせ我慢とかしているんじゃない、もしかして?相川先輩には二人で決めたことだし、もう何も言わないって啖呵切っちゃったんだけどさ…。でも、後悔はさせたくないから…」

「はい。正直、心のどこかではやせ我慢って気持ちあるかなって…。でも、これ以上ないくらい考えを尽くしたんです。その結果ですから…。テツヤとは心が通ってるし、自然体でやっていきたいんです。今更ながらですが…」

「そう…。よし、わかったわ」

矢吹先輩は広げた両手で膝のあたりをパンと叩いて、ニッコリと笑ってくれた

それは妙に歯切れの良い音だった


...


「…そこで、あなたも十分察してると思うけど、今回の卑劣な行為を企てた輩どものことよ。あなたとテツヤの件に絡ませ、あなたに”引き金”を引かせる意図が伺えたわ。南玉には、”横田競子”を直接要因とした決起を仕掛ける腹だった。相川先輩と私はこう読んでる。横田さん、あなたもそうなんでしょ?」

矢吹先輩はさっきまでの穏やかな顔を一変させて、激しい口調になった

そして、話はまさに端的だった

この人、全部お見通しだ