その8
多美代



私がみんなの前に戻った時、すっかり”空気”は一変していたよ

真澄先輩が言葉巧みにキャビネットへの歩み寄りをみんなに説きまくり、この場にいないメンバーから取り付けた白紙委任をうまく使って、既にほぼ半数の消極的賛成を形成させていたんだ

...


「…いづみ先輩!墨東会は相和会から妨害を受けたにもかかわらず、3人が駆け付けてくれたんですよ!紅組と南部さんらも片桐さんの部隊を振り切って、もうじき火の玉に到着する模様です。それなのに、南玉は誰も行かないんですか!そんなことしたら、南玉連合は地に堕ちますよ!」

「本田…、だから、南玉連合の総意ってことなんだろう?もっともだって、それ。なら、アンタも含めてここで決とって、その結果火の玉に乗り込むべしと決まれば、ここにいる全員で行けばいいじゃないか。せっかく横田が繋いでくれるんだろう?荒子がいないんだし、それだけで方針決定は抵抗あるけど、アンタが言うように今は非常事態だ。だから、ここにいるメンバーで決めるって言ってんだからさ」

いづみ先輩は一向にこう言い張って聞かないや…

「…本田、それなしで、誰か幹部が行けば南玉の”意志”と見なせれちゃうんじゃ、余計、誰もやれないでしょが。さあ、決を採りましょう、いづみ」

それを受けて、ここで木戸先輩だ…

「待って!それなら、家に連絡が入ってないか、最終確認して来ますから…」

そこへストップをかけたのは、のん子先輩だった

先輩、私に目配りして出て行った…

明らかに時間稼ぎだろうが、たぶん、誰かの到着を待ってるんだと思った

そして、その答えは、すぐにはっきりした


...


「夏美―!」

倉庫に入ってきたのは、昨日、南玉を脱退した相川先輩だったよ!

...



先輩はもう腹を据えてくれて、南玉決議を無視した形で、有志のみの火の玉川原突入を訴えてくれた

そうだって…!

もう、能書き唱えてる場合じゃないんだよ

当然ながら、木戸先輩が相川さんを部外者の蛮行と糾弾して激しく異議を浴びせてきたけど…

でも相川先輩は、木戸先輩の主張など完全拒絶を貫徹して、火の玉川原への”出発”を宣言してくれたんだ

そしたら…、1年の2人が席を立った

まあこんなとこか…

と思ったところで…、なんと、湯本先輩が倒れ込みながら室内に入ってきたんだ!


...


ここで”空気”はまた変わった

肩を脱臼したにもかかわらず、火の玉に向かってるという矢吹さんと、みんなを連れようと満身創痍の体を押してここへ来てくれた湯本さん…

この二人の不屈の闘志と南玉連合への思い…

湯本先輩の熱い姿を目のあたりにして、その場の半数が、相川先輩と出陣を共にする決断をしてくれた

遅まきながらではあるが、これより南玉連合有志12人が、本郷と戦っているであろう火の玉川原のおけいの元へとバイクで直行する!