その2
ケイコ


「あなたたち…、まさか、矢吹先輩に殴られたとかってないよね…」

私は単刀直入にそう切り出した

あまりに唐突な"低姿勢"だったので、変な心配が先に来ちゃったよ、私

「ううん、それはなかったわ。ただ先輩からは、ホントなら思いっきりぶん殴ってるところだって言われたわ。でも横田さんは、そんなことしても喜ぶはずないから、こらえてるんだって。ごつごつのこぶしを握りながら…。その時の先輩はとても怖かった…」

「矢吹先輩‥、それやったら、横田さんがますます云われなき嫉妬と誤解を受けるから、しょうがないから我慢してやるって。怖かったよ、先輩の顔…」

「そうか…。殴られはしなかったんだ。ならよかった」

やっぱりあの人、さすがに凄いわ

「でさ…、テツヤからは聞いてると思うけど、もうあなた達にわだかまりはないんだ。さっき、亀山さんにも会って言ってきたけど、テツヤを慕って集まった10人は他の連中とは違う。テツヤとのことは、あんたたち以外の”そいつら”に屈して決めた訳じゃないからさ。それをさ、他の”彼女軍団”にも話してもらいたいんだ」

私は亀山さんに伝えたことをなぞるように、”同じ主旨”を黒沼の二人にも”発した”

二人はうるうる状態で、小さく頷くだけだ

それは何かの発作みたいに…


...



「じゃあ、私たちを許してくれるの?横田さん…。私たちが言い出したことなのよ、今回の件は」

「ああ、もういいんだよ。こっちこそ、今考えてみればさ、テツヤの周りの子に対しては最初からケンカ売ってるようなもんだったしね…」

「横田さん…」

「あなた達には、特に不快な視線を送ってたと思うよ、確かに。ははは…、私もいたらなかったんだ。それは反省してる。だからもう何とも思ってないよ」

「横田さん…。私たち、テツヤにはあなたが一番相応しいって承知してた。でも認めたくなかったのよ。これまで通りのテツヤでいて欲しくって…。それで、つい、”あの人”たちの手を借りてあなたをって…」

ここで、"あの時"の”真相”が聞ける…

「…でも、まさか刃物まで手にするなんて、そんなつもりはなかったのよ。気が付いたら、もう引き返せない状況だったの…、私たち。うっ、うっ…」

大体は想像していたけど、何とも生々しい話だわ…

「私たちはテツヤのこと以外であんなに人が集まるなんて、思ってなかった。でも岩本さんから、テツヤをあなたに奪われたくなかったら、それ、絶対やれって。怖くて断りきれなかったわ。それで、あんなことしでかしちゃった。うっ、うっ…」

岩本のヤツ!

人の心の最も”柔らかい”場所を突いて、酷いにもほどがあるよ…

”奴ら”…、これ以上は見過ごせないっての!