その6
夏美



私がのん子の家の倉庫前に着いた時は、7時半を過ぎていた

既に本郷の示した刻限を切ってるし、もう非常事態なのは間違いない…

...


「…先輩!今さっき、多美が着いて…。火の玉では横田さんが一人で挑むそうです…」

外で待っていたのん子が、矢継ぎ早に”現状”を告げてきたわ

「…連中、南玉の幹部が来なければ不戦勝って目論見らしいんです。それで、多美がみんなを連れに戻って…。でも、真澄先輩がメンバーを懐柔しています…」

どうやらケイコはその辺も心得た上で、南玉メンバーが駆け付けるまで繋ぐつもりらしい

あの子がそこまでの思いを持ってくれてるっていうのに…

私は心が爆破しそうだったよ!


...


「のん子、もう、強硬策しかないよ。ここに至っては、火の玉に行くか行かないかだわ。あなたはどっちなの?」

「行きます!」

「わかった。一人でも多く連れて、ケイコの元に行こう!」

「はい…」

私の腹は決したわ


...


のん子の先導で私は倉庫内に飛び込んだ

「相川先輩!」

「夏美…!あんた、もう南玉の人間じゃないのよ。あのね…」

「真澄、もう沢山だって!」

私は大声でそう吐き捨てたわ

皆が一斉に私へ視線を集中する中、まっさきに本田多美代が私の正面に立って、早口で”訴えて”きた…

「相川先輩!おけいは南玉加入を宣言した上で、本郷とタイマンを迫るつもりです。今頃はアイツ、一人で30人以上の敵陣に突っ込んで行ってますよ!現場の墨東の先輩からは、何しろ南玉の主だった人間を引っ張ってくるようにと言われて…!でも私…、おけい一人を残して…。先輩!」

多美は涙をぼろぼろ流していたよ…


...


私は多美の肩をポンとたたいた後、みんなに向かって立ったまま一喝した

「みんな!この期に及んで理屈なんかクソでしょ!私はこれから本田とのん子と共に、ケイコの元に駆けつける。他は、火の玉に殴りこむ覚悟を持つ者だけでいいわ。全員、自分の心に従って!…のん子、多美…、さあ、急ごう!」

「待ちなさいよ、夏美!ほぼ過半数がキャビネットとの協定合意で納得してるのよ!皆、決に従って行動することに同意してる。その結果で…」

真澄!

「うるさい!あんたはここでゆっくり演説かましてろ!」

その時だった…

バタン!

倉庫の扉が勢いよく開くと、あっこが中へ倒れ込んできたんだ…!