火の玉河原決戦カウントダウンへ…②/総力戦~その信条を掲げて
その1
南部



ブブブ…、ブブブ…

静かな山間部をバイク数十台のエンジン音が、小刻みに振動させている

その絶え間ない響き…

何とも凄い緊張感を醸してるな


...


ミキさんと片桐さんは10M程の距離を挟み、真正面で向き合っている

言葉はまだ発せられていないが、二人の間では無言のやり取りがすでに始まっているんだろうな

俺は墨東会OB3人と先頭の左端に陣取っている

事前の申し合わせ通りの配置だ

さあ、始まるぞ…


...


「…ミキ、まずは今朝の声明文納得してもらったかしらね。返事を聞かせてもらうわ」

「全く納得いきません。紅子さんが引退して渡米した直後に、創立幹部全員で一方的に離脱してるんですよ、そちらは。そんな人たちに大儀など大そうに語られても、説得力ゼロです」

”パチパチパチ…”

「ミキ、それに奈々子もよく聞いて。今までは、紅子さんがいたから離脱もなかったんだって。すなわち、あの人が欠けたら分裂は避けられない状態にあったのよ、紅組はね。紅子さんが掲げた理念も、そのままでは通用しない時期に差し掛かっていた…。これは誰もが心の中で抱いてたことじゃないの?他なあらぬ紅子さん自身も」

”パチパチパチ…”

「…」

ミキさん、言葉に詰まってるな…


...


「…ミキ、コトは紅組だけの土壌で起こってるんじゃないのよ。都県境が赤塗りされて、この地の若い女たちが覚醒された…。女主体の組織が次々とでき、その輪がさらに広まろうとしてる…。これって必然的でしょ。県外の若い女たち、この地の女子中学生らまでもがジレていたその現実をさ、少数精鋭の選民意識に固執していたことで、その急速な流れの変化へは目線が欠落していた…。そのことを自覚できなかった。これさえも認められないの、あなた達は!」

”パチパチパチ…”

どうやら初っ端はお互い拍手だけで、怒号の掛け合いはセーブが効いてるな

まずはちょっと安心した

だが、ミキさん…、押されてる


...


「いえ、認めてますよ。だからこそ…」

「アンタねえ…、紅子さんの代わりなんて、ミキに限らず誰がやっても無理よ。そんなこと、わかってるでしょーが。…ならば、変化に柔軟な姿勢をとることなしに、旧態依然は通用するはずない。その為に大同小異はあっても、発熱した猛る女たちの大きな受け皿をこさえる思い切った再編が必要不可欠だと、私は訴えてる訳。これで納得してもらえた?」

”パチパチパチ…”

「ジュンさん、あんなヤクザをバックにして、卑劣極まる策謀を何のためらいもなく仕掛けてくるきたない連中と手を組むことなんか、大同小異の次元を超えてます。全然、納得できませんよ。あなた達の主義主張は偽善と自己都合の摺り寄せです!」

”そうだ!その通り!”

”あんな無法者と一緒になって、恥ずかしくないの!”

”離脱組はご都合主義者の集団よ!”

うーん…

ここで紅組の方から相手への口撃が出たわ

気持ちはわかるが、ちょっと感情が先走ってるな

ミキさんも…