その5
麻衣



私はヒールズのカウンターで待機している…

さっきから店の電話には各方面から、次々に報が届いてるわ

ちょっと前には、アンコウから電話があった

木戸ちゃんが間もなく、南玉の連中が集まってる場所に出向くとのことだった

あの人には今回、こっちの誘導通り実に理想的な行動を取ってくれて大いに感謝してるわよ(爆笑)


...


プルルーン…、プルルーン…

さあ、今度は誰からだ…

「…おお、麻衣ちゃんか?」

あら、倉橋さん…

「こっちは済んだぞ。今、真樹子はベッツを出て次の現場に回った。そっちには俺から報告してくれと言われてね」

「そうですか…。それで、どうでした?」

「積田はキッパリ突っぱねてきた。墨東本体に相和会をぶつけてると言ったらすっ飛んでったよ。なかなか律儀な男だな…」

「あの…、真樹子さんと積田さん、どうなっちゃうかしら…」

私はそれが一番の懸念だったから…


...


「大丈夫だろう。傍から見てて、お互いの立場を理解しながら、ギリギリのところでぶつかり合っていたしな。…積田もこの形なら、墨東会から責任を追及される状況には至らないと思うよ」

「そう!よかった…」

「ハハハ…、真樹子のヤツ、自分でキミに報告すると涙が出てきちゃいそうだからって、俺にな…。アイツはクリアしたよ。今の立場を…」

「倉橋さん、ありがとう。私情が禁物なのは分かってるけど、真樹子さんにはあの人と今回の件で決裂させたくなかったの。せっかく、ああいう人と巡り合ったんだもんね…」

私はいつになく、感慨に浸っていたよ


...


なにしろ、本オペレーション中、私の中で一番ブレーキが効いた局面だったから…

考えに考えた末、積田さんの立場を極力傷つけないやり方を模索してセットしたつもりだったんだ

だから、実際ホッとした

最終決戦の直前、こういうメンタルはタブーではあるし、真樹子さん自身もそこんとこを承知しててね…

闘志が萎えちゃわないようにって、私には直接話さなかったんだろう

今頃、次の現場ではいつもの真樹子さんになってるはずだ