その4
夏美



私達は本郷の策謀的な側面ばかりに目が行っていたが、ヤツは中学生の頃から荒子イズムに胸をときめかせた少女だったのよ

いみじくも、先日の幹部会で南玉を除名される際、ヤツは宣言していた

自分は、荒子イズムを心の芯から支持していると…

今振り返ると、あの時の本郷は自分の心に素直なことを口にしたんだろう…、とも思える…


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紅子さんだったから、みんな収まっていた…

今…、確実に言えるのはこのことだよ

これ、私たちはもっと自覚すべきだったんだよね

もう、今日のこの国の若い女は、かつての紅組に憧れて傍からそれを支えにして何かをやり遂げる励みにするってことだけで留まっていない

特に、情念の激しい猛る女たちが集結する地だもん

この都県境は…


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バイクをかっこよく乗り回す紅組や南玉連合には、勇気を与えてもらうだけでなく、自分もチームに加わってバイクをみんなで乗り回したい…

そんな熱い気持ちが湧いてきてるんだよね、きっと

今更ながら、そういった本質と目の前の現実に耳目を傾けることに鈍感だったわ、私…

今回、本郷サイドに加わっている岩本真樹子だって三田村峰子だって、紅組をはじかれた人たちだ

たぶん黒沼高校を襲った迫田も、ドッグスに入った津波だって…、ずっとフリーでくすぶっていたんだろう

そんな彼女らは、今、結果的に中学生や他県の少女たちの代弁者として、既存の硬直しきったフレームを壊しにかかっているのかもね


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そして彼女らは南玉連合に対して、生まれ変わることの必要性を突き付けた…

本郷麻衣がヤクザの相和会の力まで使って南玉を単に潰すだけなら、こんなに大勢の熱い仲間が集まらなかっただろう…

迫田や津波がそんな本郷を支えるのは、無茶でやりすぎだとは思っていても、そのことによって時代に合わせたリセットが可能だと、”希望”を持ったってことからだと思える

同時に、ここで本郷麻衣の”無欲”がクローズアップする訳よね

今夜、本郷が南玉を新しい形にしてしまうのは、もう避けようがない

いい悪いは別として…


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だが本郷は、自分が思うままに、南玉を変えようとする気は毛頭ないと思えてならない

自分の過激な挑発を買ってでる、真に骨のある人間と真正面からぶつかりあう…

その結果で生まれ変わった南玉連合を、ヤツは受容する…

そんな気がするな


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極論として、南玉が崩壊するかもしれない、ここ都県境の今回の再編劇は、紅丸有紀の引退と本郷麻衣の登場によってもたらされたと言えるわ

だが、私達は中心から外れてても、己の信ずるところに最後まで邁進する心にいささかの迷いもないよ

発熱した猛る女たちはもう止まれない…