その23
ケイコ



このイカレ女め!

今の角度って、私をひき殺す気合なけりゃ、もって来れねえっての!

よーく分かったわ、アンタのクサレ具合は!


...



「ああ、そうだ、紹介しとくわ。コイツ、北田久美っていうんだ。レッドドッグスの同志で、大河原のクラスメート。よろしくな」

あっ…、この子…?

「横田さん。”初めまして”。以後、よろしく…」

「ああ、滝が丘高1年の横田競子よ。よろしく…。ああ、だけど初めましてじゃないよね、あなたと私…」

「どういう意味だい、横田さん」

麻衣がうすらニヤケた面で、のたまわるってるよ

「北田さんとは、一度会ってる気がしてさ」

「どうなんだ?久美」

「ううん。よーく顔見たけど、覚えないよ、私。人違いでしょ」

「ハハハ…、こんな髪染めたチビ、その辺にいっぱいいるしね。勘違いだわ、アンタの」

「…」

すっとぼけやがって、こいつら…


...



北田久美のことは、多美からそれなりに聞いている

ドッグスでは麻衣に最も近いメンバーで、今までの揉め事でも、常にコイツが前面を張ってきたって…

フン…

ならよう、あの中央公園でもまあ、”そういうこと”なんだよな…

”あの時”、岩本が言ってた15人って、この北田久美を外してのカウントだったんだわ

なら、その意図するところ、それに今になってわざわざ私に面通しってことは…

本郷!

手の込んだこと晒してんじゃねーっての!


...



「横田さん、退院して間もないってのに、すっかり元気なんで”安心”したよ。はは…、さすがだし、今の身のかわしなんか。すごい反射神経だわ。何しろ、ひき殺せるくらいのスピード出ちゃってたから…」

「出たんじゃなくて、出したってことじゃないの?なあ、日本人同士なんだからさ、正しい表現で頼むよ」

「そうだな。なら、改める。アンタに対しては、そのくらいの気合なきゃってさ、そういうことだわ。…そんでさ、これも小耳に挟んだんだけど、例のエロ男と別れたんだって?くっつくのも早いけど、バイバイも随分と簡単なもんなんだね、オタクら。その辺の動物みたいだな」

「よく聞いてくれたよ、アンタ。今から言うこと、耳の穴かっぽじって頼むぞ。私とテツヤはお互いアツアツのまま、違う向き合い方をすることにしたんだ。彼を慕ってる彼女連中とも気持ちをぶつけ、そして交わした結果だよ。でね…、あんたも十分承知の、その他の輩どもには全く遺憾ってことでね。もし、知り合いとかいたら、クソだって伝えてほしい」

「…」

「…それとこの際、念押しで言っとくよ。亜咲さんに対しての約束、まさか忘れた訳じゃないよな?」

「ああ、しっかりと”ここ”、入ってるよ」

この野郎め!

”ここ”と指差したの、アタマじゃなくて心臓だよ

どこまでも、ふざけてやがる!

お前が亜咲さんとの約束、これ以上ない汚いやり口で踏みにじったのは明らかだろーが

「なら、わかった。私も病院で会った時に言った気持ちのままだから。これで決まったわ」


...


本郷麻衣!

いい加減、堂々と来いって!

私はもう噴火寸前だっての!

この夏、やってやるからな…

私はあえてヤツの挑発に乗って、そう遠くはないであろう”決着”を胸に誓ったよ