その22
麻衣



「…いいか、久美。あのカモシカが、あそこの廃屋の手前まで着いたところで行くぞ。全速でな。そんで、廃屋脇の道にノンストップで回り込む。奴の目の前をかすめる距離で。その後は言ったとおりに対応するんだぞ」

「うん、わかってる…」

「よし、そろそろだ。しっかりつかまってろ!」

「了解だよ。大丈夫だ」

今だ!

数秒後、私はカモシカの後ろ姿を目指して突進した

ブオーン!ブブブーン!ブーン…

さあ、カモシカに接近したぞ

うぉー!行くぞー!

と、その瞬間…

カモシカ女、消えちゃった…


...



??…

ブブブーン、キーッ…

バイクはちょうど横田んちの前で止まって、振り返って見たんだが…

いや、どちらかというと…、お隣の亜咲さんちだった空家の前だわ

ああ、亜咲さん、私…

ダメだ!

こんな時、そんな気分に浸ってちゃ…

「麻衣…」

「ああ、久美…、悪い。ヤツ、廃屋のブロック塀の手前でさ…。アイツ、入ってったよな?塀ん中に…」

「うん、確かに塀の中に入ったよ。この目ではっきりと見たし、私も」

「あの野郎!何なんだ、急に…。オシッコでもしたくなったのかな…?」

「麻衣、いくらなんでも家まですぐなんだし、オシッコはないと思うよ。きっと違う理由だよ」

「ああ、そうだよな。久美の言う通りだ…」

さすがに予測外の事態で動揺してるせいか、この私も久美にツッコまれるザマだわ

「…久美、再度行くぞ。今度は出てきたところにすぐだから、うーん…、あそこの反対側車線からしかないな。一気に…」

「わかった…、麻衣」

とは言え、久美め…、少々ビビってるわ

反対側車線からわずかの距離を全速横断だもんな…

はは、私もビビってるって(苦笑)

さあ、仕切り直しだ…


...



思えば”あの日”、そこの廃屋の陰で亜咲さんのバイクをリエが車上からヒットする瞬間を見守っていたんだわ

リエほどの腕はないが、フン、やってやる!

来たるべきヤツとの決着に際しては、”丁重”なアイサツが欠かせない

今日、私流でいくぞ

横田め…


...



そのタイミングはすぐに訪れた

「久美、絶対放すな!行くぞー」

「おおー!」

セカンドアタック敢行だ

今度ははずせない!

ブオーン!

私はこれ以上ないほどの急加速でぶっ放し、横田の体がかすれるくらいのところを猛スピードで通過した

これ、我ながらだが、横田を轢き殺さんばかりのエグい角度だったわ

「バカヤロー!危ないだろーが!」

ギャハハハ…

いいわ、この下品かつでかい声

惚れ惚れするよ、カモシカちゃん…