その21
ケイコ
黒沼高校での合同部活練習を終えて、帰路についた
午後5時15分…
自宅まで歩いて8分ほどのバス停、「猛女新田(たけめしんでん)入り口」で私はバスを降りた
ここから私はいつも、片側一車線の歩道のない道を、南に向かってゆっくり歩いていく
この時期、時間帯がもう少し早いと、右側からは猛烈な西陽が照り付けてくる
眩しい限りの太陽から届く贈り物…
幼い頃から私は、この道で見る西陽の空が好きだった
視覚的にもそうだが、むしろアスファルトの道路から湧き立つ”あの臭い”にどこか惹かれていた気がするんだ
あれ、子どもの頃、変な表現だが太陽のゲップみたいなイメージを持ってた
どうしようもないほどオレンジのいたずらっぽい陽線が、私ら子供を遊びに誘ってるような、そんな感じでね
あれって、太陽の子供たちなんじゃないかって…
...
想像を絶するような光を発する太陽さんは、一秒に数十万だか数兆だか知らないが、無数の”子孫”を放出するから、いちいち子育てができないんだ
気の遠くなるような遥か彼方から、私たちの星にも太陽の子たちが漂着する
西陽ということで、それって、ほぼ死に際って感覚で捉えてたよ
でも、私には笑ってるように見えてたんだよね
偶然たどり着いた地で、ようやく触れあえる”相手”が見つかった喜び…
光の側からしたら、燈す相手が見つかれば、それで使命を全うできるのかもね
だから、私たちに到達した光たちは安心して旅を終える…
囁かなその一瞬こそ、私たちをジンジン照らす西陽なんだろうって
なので…、あの臭いって、光が焼かれた臭いだったかなってさ…
...
この家路を歩いてた幼い頃の私には、漠然とそういった一つのストーリーが出来上がっていた
そして、光たちは私と会ったその瞬間に死んじゃう
苦しんでる姿は私たちには見えないし、決して見せない
”一瞬”って美しいな…
私の一生だって、所詮は”一瞬”に過ぎないんだろうなあ
何となくだが、そう言う感覚を頭の中で呟いてた記憶がある
...
こうして西陽を浴びながら、その日起こったことを振り返る…
小学生のころからずっとそうだった
楽しかったこと、悲しかったこと…、その日その日でいろいろだ
そして、今日もそうだが、ここんとこはテツヤのことがいつもだった
テツヤとの新たな”付合い”は、今日が実質スタートだった
で…、陸上仲間を前に、私たちは自然体でいけた
とにかくヤツと接してると、楽しくてしょうがない
どっとディープな恋仲もいいが、”今の”私たちには、このはじけるような関係もフィットするかな…
まあ、今後は流れに任せるし、どういう展開が訪れるかわかんないけど
でも全然、元カレって感覚はしないんだよなあ、テツヤのこと…
そんなことが頭をよぎっていたら、”ここ”にさしかかった
自宅までほんの100Mちょっとの地点…
私の左側はブロック塀がある
それは近所の農家が所有してる廃屋状態の物置だ
今日は久しぶりに、ちょっと覗いてみるか…
...
廃屋の中は”そのまんま”だったよ
私は一時、タイムトリップして、様々な想いに浸っていた
ある意味、”ここ”は子供の頃に今の私をカタチ創った原点だったんだ
さあ、家に帰ろう
私はブロックの外へ出て、もう間近の我が家へと再び歩き始め、廃屋の脇道にさしかかった
と…、まさにその時だった
”ブオーン!ブブブーン…、キューッ!!”
二人乗りのバイクが、私の目の前を猛スピードで横切ったんだ
そしてその数メートル先で急停車した
「バカヤロー!危ないだろーが!」
私は止まったバイクに向かって、持ち前の大声で怒鳴りつけたよ
するとエンジンが止まり、二人はバイクから降りた
そして運転していた方がヘルメットを取ると、こっちを向いて歩いてくる
女だ…
「あー、ごめんなさいね。横田さん…」
ニヤニヤしながらいきなり私の名前を口にしたコイツ…!
明らかに本郷麻衣だった
ケイコ
黒沼高校での合同部活練習を終えて、帰路についた
午後5時15分…
自宅まで歩いて8分ほどのバス停、「猛女新田(たけめしんでん)入り口」で私はバスを降りた
ここから私はいつも、片側一車線の歩道のない道を、南に向かってゆっくり歩いていく
この時期、時間帯がもう少し早いと、右側からは猛烈な西陽が照り付けてくる
眩しい限りの太陽から届く贈り物…
幼い頃から私は、この道で見る西陽の空が好きだった
視覚的にもそうだが、むしろアスファルトの道路から湧き立つ”あの臭い”にどこか惹かれていた気がするんだ
あれ、子どもの頃、変な表現だが太陽のゲップみたいなイメージを持ってた
どうしようもないほどオレンジのいたずらっぽい陽線が、私ら子供を遊びに誘ってるような、そんな感じでね
あれって、太陽の子供たちなんじゃないかって…
...
想像を絶するような光を発する太陽さんは、一秒に数十万だか数兆だか知らないが、無数の”子孫”を放出するから、いちいち子育てができないんだ
気の遠くなるような遥か彼方から、私たちの星にも太陽の子たちが漂着する
西陽ということで、それって、ほぼ死に際って感覚で捉えてたよ
でも、私には笑ってるように見えてたんだよね
偶然たどり着いた地で、ようやく触れあえる”相手”が見つかった喜び…
光の側からしたら、燈す相手が見つかれば、それで使命を全うできるのかもね
だから、私たちに到達した光たちは安心して旅を終える…
囁かなその一瞬こそ、私たちをジンジン照らす西陽なんだろうって
なので…、あの臭いって、光が焼かれた臭いだったかなってさ…
...
この家路を歩いてた幼い頃の私には、漠然とそういった一つのストーリーが出来上がっていた
そして、光たちは私と会ったその瞬間に死んじゃう
苦しんでる姿は私たちには見えないし、決して見せない
”一瞬”って美しいな…
私の一生だって、所詮は”一瞬”に過ぎないんだろうなあ
何となくだが、そう言う感覚を頭の中で呟いてた記憶がある
...
こうして西陽を浴びながら、その日起こったことを振り返る…
小学生のころからずっとそうだった
楽しかったこと、悲しかったこと…、その日その日でいろいろだ
そして、今日もそうだが、ここんとこはテツヤのことがいつもだった
テツヤとの新たな”付合い”は、今日が実質スタートだった
で…、陸上仲間を前に、私たちは自然体でいけた
とにかくヤツと接してると、楽しくてしょうがない
どっとディープな恋仲もいいが、”今の”私たちには、このはじけるような関係もフィットするかな…
まあ、今後は流れに任せるし、どういう展開が訪れるかわかんないけど
でも全然、元カレって感覚はしないんだよなあ、テツヤのこと…
そんなことが頭をよぎっていたら、”ここ”にさしかかった
自宅までほんの100Mちょっとの地点…
私の左側はブロック塀がある
それは近所の農家が所有してる廃屋状態の物置だ
今日は久しぶりに、ちょっと覗いてみるか…
...
廃屋の中は”そのまんま”だったよ
私は一時、タイムトリップして、様々な想いに浸っていた
ある意味、”ここ”は子供の頃に今の私をカタチ創った原点だったんだ
さあ、家に帰ろう
私はブロックの外へ出て、もう間近の我が家へと再び歩き始め、廃屋の脇道にさしかかった
と…、まさにその時だった
”ブオーン!ブブブーン…、キューッ!!”
二人乗りのバイクが、私の目の前を猛スピードで横切ったんだ
そしてその数メートル先で急停車した
「バカヤロー!危ないだろーが!」
私は止まったバイクに向かって、持ち前の大声で怒鳴りつけたよ
するとエンジンが止まり、二人はバイクから降りた
そして運転していた方がヘルメットを取ると、こっちを向いて歩いてくる
女だ…
「あー、ごめんなさいね。横田さん…」
ニヤニヤしながらいきなり私の名前を口にしたコイツ…!
明らかに本郷麻衣だった