その4
ケイコ



私は「はい」と手短に返事をして、”それ”を認めた

矢吹先輩は小さく頷くと、さらに続けた

「あなた、”連中”にその手には乗らいなぞって、シグナルを送る目的もあって、テツヤの”取り巻き”へ迅速な対応をとったんでしょう?」

「はい、それはありました、確かに。でも、テツヤとのことは奴らには屈したんじゃないと、自分個人の意思表示も含んでます」

「うん。あなたらしいわ、いかにも。でね…、当然私らの側も、そんな下劣な手に乗る訳には行かない。だけど、あいつらはあなたをすでにターゲットにしてると思うのよ。これで終わらない。いや、今まではプロローグのつもりよ、奴ら。これからはもっとえげつなく来るわ」

先輩は私の目から視線を外さず、その言葉には力がこもっていた


...


「…それが”なぜ”かは、横田さんも思い当ってるだろうから、あえて言わない。…私はね、とても危惧してるわ。だから、あなたはあくまで南玉を含めたフレーム外の立場だけど、今後水面下ではそれなりの”連携”をとっていきたいと思ってるの。即答でなくていいから、考えておいてくれるかな?」

どうやら先輩は、先日ここで私が口にした、”決意”のことを意識して話してるようだ

こんなところにも、自分の立場とは別の心遣いが伝わるよ

であれば、私の返事は決まっている

「はい。おっしゃってる”主旨”は分かっていますので…。こちらこそ、よろしくお願いします」

「じゃあ、相川先輩にはそのまま伝えておくわ。ふー、少し、ほっとしたわ。ありがとうね、横田さん」

ここで先輩は椅子の背に、どすっと勢いよくもたれかかって表情は一気に和らいだわ

この先輩はいいなあ…

人望が厚いってのも納得だわ

びしっと筋が一本通ってるけど、常に周りへの深慮を怠らない

相手にはいつも真面目に接してくれてる

きっと誰に対してもそうなんだろう

今日は改めてそう実感できたよ


...


さあ、グランドに戻って合同練習だ

テツヤ、もう来てるかな…

私は空手部の室を出て、”みんな”の元に走って行った