ベンチに腰を下ろす。頬に伝うのは雨か、それとも涙か。視界がぼやける。

「うっ……グスッ、もう……いや」


誰もいないこの空間でしか私は泣けない。人前で泣けばそれこそ負けたと認めたことになるから。泣いている姿だけは絶対に見せたくなかった。


何度“死にたい”と願っただろうか。それでも私をこの世に縛りつけているのは『いつかあなたに幸せをもたらしてくれる人が現れるわ。それまで、生きて。耐えるのよ』というお母さんの遺言だった。


私のお母さんが死んでからこれまでの人生に“幸せ”の四文字なんてなかった。


「もう……いいかな、私もう……限界だよ」


それでも生きて耐えればいつか……と思ってた。だけど、そんなの嘘。


うさぎのキーホルダーを握った両手を胸に寄せる。雨に濡れ体温を奪われた重い体で祈るように。


「だれか、助けて。お願い……誰でもいいから」


散々泣いて掠れた声で私はそう呟いた。だれにも届くことのない、小さな祈り。



そのはずだった。


急に雨が止んだ。いや、違う。霞んだ視界にはまだ雨が降っている様子が視える。


どうして。顔を上げると黒い傘が傾けられていた。そして背の高い一人の男性。