「あんたのこともここから投げ捨ててやりたいけど……今私の気分がいいから見逃してあげるわ」


彼女はそう言い残すと私たち以外誰もいない教室から出ていく。私はうさぎの行方を追うように窓から身を乗り出す。


アスファルトにできた大きな水たまりで溺れるキーホルダーの小さな影が見えた。


「なんで……私ばっかり」


リュックを背負うと私は教室から飛び出す。傘なんて便利なもの持ってない。大雨は私を濡らす。服や靴がぐっしょりと水分を含み、だんだん重くなる。


水たまりに浸されてた白かったはずのうさぎのキーホルダーは足跡がついて、茶色と灰色が入り混じった染みになった。


お母さんが作ってくれたこのキーホルダーは私がずっと大切にしてきたものだ。どんなに心が折れそうになっても、このうさぎのおかげで耐え忍んできた。


なのに、今はうさぎの耳はへにょりと折れ曲がり、見るも無惨な姿になっている。


手のひらに乗ったキーホルダーを大事に胸に抱きしめて、雨の中私は学校を後にした。



家には帰りたくない。夕食の準備をするギリギリまで毎日私はこの場所に来ている。


色とりどりの花々が咲いている花畑。恵みの雨によってそれらは輝いていた。