それを聞いた彼は眉間に皺を寄せて、今回2回目のため息をこぼした。


「濡れるのに慣れるも何もないだろ。……仕方ないな、俺は雨が好きなんだけど」


彼の後半の言葉が理解できずに首を傾げる。頭上にある彼の顔を見つめていると、鈍く彼の瞳が赤く光った。


すると激しく降っていた雨がみるみる内に穏やかになり、やがて止んだ。雲がありえないほど急速に動いて、太陽が顔を出す。


一点を見つめて集中していた彼はふう、と一息ついた。瞳はもう黒色に戻っている。


神様はキーホルダーを持っていない私の左手を取ると畳んだ傘を握らせた。


「やる、もう雨に濡れるなよ」


「そんな!!もらうなんて、できません!!」


返そうとするも彼は着ていたコートのポケットに両手を突っ込んで拒否する。ありがたく貰おうと感謝を述べた。


「……小さな幸せを見つけるんだ」


「え……?」


「晴れていること、花が咲いたこと、蝶を見たこと。どんなに小さなことでいいから、幸せを見つけて今日を尊ぶんだ」


「小さい、しあわせ……」


そうやってこれからも生きていけ、と彼はぶっきらぼうに続けた。真っ直ぐに逸らされることがない視線は力強い。