幽霊だってもっと表情豊かなのに。だけど私とまともにお話ししてくれたのは、お母さん以外に彼が初めてだった。


「これ、直したら君は嬉しい?」


「は、はい。でも……もうこれは」


丁寧に手洗いしても汚れは落ちないだろうし、縫ったって直りっこない。


彼は再び指先でうさぎのキーホルダーに優しく触れた。ほんのり暖かい温もりが手のひらに広がって、淡い光に包まれた。


「うそ……」


一瞬のうちにキーホルダーはかつての姿を取り戻していた。まるでプレゼントされた当時と同じだ。


じんわりとまた涙が溢れ、そして流れる。嬉しかった。修復不可能だと思っていたから。


「ありがと……ございます。かみさま」


こんな奇跡起こしてくれるのは神様以外いないだろう。そう呼んでも否定されなかったが、彼はここにきて初めて表情を崩した。


中腰でいるのをやめた彼を追って顔を上げる。困ったように首に手を置く姿に私は小さく笑った。


「傘は持ってないのか?」


私に傘を傾けたばっかりに神様は代わりに雨に打たれていた。それを思い出してすぐに立ち上がり傘の柄を彼の方に押そうにも、がっちりと動かない。


「濡れるのには慣れてるので大丈夫ですから。あなたが差してください」