息をのんだ。綺麗な顔立ちで、傘を私に傾けたことによって自らが濡れていた。黒いセットされた髪が崩れていく。


「だ、れ……?」


かろうじて絞り出した私の一言は彼には届かなかったのか、彼はじっと私を見つめる。それからゆっくりとした瞬きをした後、ため息をこぼした。


「幽霊、なの?」


「違う。あんな低俗と一緒にするな」

恐れを知らないその言葉遣い。


「……あなたも幽霊が視えるの?」


彼は当たり前だと首を縦に振る。初めて霊感がある人に会った。組んでいた手を膝の上に置くと、彼は長い指で私の手を指さす。


「それが汚れているから、君はそんなに泣いてるのか?」


雨音の中でも彼の心地よい低い声は響く。彼は中腰になり興味津々に私の手の上に転がったキーホルダーを覗く。人差し指でツンと折れたうさぎの耳を突ついた。


「これもそうだけど……グスッ、色んな辛いことが重なって」


「ふーん、それで死にたいって思ったわけか」


心の中を見抜いたように彼は言った。目を見開くと視界いっぱいに彼が映る。


「そんな絶望した表情してたら誰だってわかる。それに君の未来が見えないから」


私の未来、ってどういうこと。この人一体何者なの。笑うこともせず無表情でいる彼が急に恐ろしくなる。