「…………そうだよ」
 

 (しん)のやけに冷静な声が、静かな部屋に響いた。

 
「紗英と付き合ってる」

 
 私の中の何かが、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。


「…………へぇ」


 ギリギリで残っていたプライドみたいなものが、私の声を震わせていた。

 (しん)の顔が見れなくて、というか見たくなくて、俯く。


「……」

 
 (しん)はそれ以上なにか言う気配もなく、ただそこに立っている。


「あ……はは」


 私の悪いクセ。

 どうしていいかわからなくなったとき、ごまかし笑いをしてしまう。


「ダメじゃん、こんなとこにいちゃ……」


 この期に及んで、私はまだ期待していた。

 (しん)がなにか言い訳してくれることを。


「……」

「紗英……、〝彼女〟、泣いてたよ」


 だけど、(しん)は、


「……はやく彼女のところ、戻りなよ」


 なにも言ってくれない。


「っ……、」


 そして私は、とうとうそれを口にした。