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 そして私は、いつものように鞄のポケットから家のカギを取り出して、自宅玄関の扉を見つめていた。
 

「……」


 こんなにこの扉を開けるのが怖いと思ったのは、初めてだった。

 なんだか気持ち悪いし、体が重い。

 紗英の泣き顔と、思い出したくないセリフが頭にこびりついて離れない。


「……」


 確認しないと。

 私はごくりと息を吞んで、鍵を開けて中に入った。


「おかえりっ!」


 ボフンッ。


 私を抱きしめるいつもの(しん)のぬくもりに、いつもとは違う、胸の奥の苦しい何かがせりあがってくるような感覚がした。