紗英は、ヒックとしゃくりあげて懸命に話を続ける。

 
「っ……(しん)がいなくなった日、私、喧嘩してひどいこと言ったから……っ、楽しみにしてたデートの日だったのに……!」


 私は、紗英の背中をさすろうとした手を止めた。

 ある言葉が胸に引っかかったからだ。


「…………デート?」


 私がうわごとのようにこぼしたその言葉を拾って、紗英がハッと顔をあげた。

 そして困ったように笑って、言った。


「その……皆には秘密に、してたんだけど……私と(しん)、付き合ってるんだ」


 ビリビリッと、体中を電流が走るような。

 胸にドンッと風穴をあけられたような。

 そのぐらいの衝撃だった。


「……」


 (しん)と付き合って、る?


「あ……そうだよね、ビックリするよね……っ。ごめん、このこと皆には内緒にしてくれるかな。(しん)には、みんなに冷やかされるの嫌だから内緒にしてって言われてて……て言っても、その本人がいなかったら冷やかされようがないんだけどね」


 そう言ってまた力なく笑った紗英は、ポロポロと、とめどなくこぼれてくるキレイな涙を懸命に拭っている。

 私はそれに対してなにか言葉をかけることもできずに、ただ呆然と(くう)を見つめて、


 『私と(しん)、付き合ってるんだ』


 紗英の言葉を何度も、何度も繰り返して、その意味を理解しようと、ただただ、必死だった。