これは僕らのひと夏の話だ

毎日が生ぬるいそんな長い日々が続いてた。今日も部屋の天井を見ながら一日が終わるのか、夏休みが始まってから10日も経つのに家から1歩も外に出ていない。
それを見越した母が、

「外に出て友達とでも遊んできなさい」
と言ってきた。

だがそんな相手は一人もいない。
いわゆるぼっちだ。

僕は仕方なく外へ出てみることにした。だが、することも無いので、散歩をしながら帰るまでの時間を稼ぐそんな計画を立てた。
せっかくだから夏気分を味わいたいと僕は海に向かった。するとそこには、小麦肌にこんがり焼けた女の子が波際に立っていた。

彼女は僕に気づくと微笑みながらこう言った、「君は何を探しに来たの?」と、

突然話しかけられ驚く。
見ず知らずの人。ましてや女の子に話しかけられ焦らない訳が無い。

辺りを見渡しながら、
「僕に言ってる?」

不思議そうな顔をしながら彼女が言う
「君以外に誰がいるの?」

「そ、そうだよね、でも僕は何も探しに来てないよ」

「そうなの?私の思い違いだったみたいね」
ここで会話が途切れる

「君は何か探しに来たの?」
勇気を振り絞り聞く

「そうだね、、胸の空白を埋める何かを探しに来たんだ」

「空白?」

「そう、でもそれが何かも分からないの。生きているようで生きてない感覚」
「君も分かる?」

何故か僕も分かる様な気がした。
「分からないけど分かるよ」

すると君は
「どっちよ」と笑いながら言った。

胸の真ん中が少しムズムズした気がした
初めての感覚だった

話してみると彼女とは何処か気があった。お互い深い所まで入り込むことない会話が心地良かった。

名前も身元も知らないただ偶然そこにいた2人だがそれは必然だったかのように、
仲良くなるのに時間はかからなかった

そして僕らは毎日の様に会う仲になっていた
彼女に会えるのが楽しみで前日からソワソワする程だった。
彼女に会ってから初めての感情ばかりで苦しいようで楽しかった。

だけど彼女はたまに寂しい顔をしている。
でもそれを聞く勇気は僕にはなかった。
聞いていたら何か変わっていたかもしれない。

もうすぐ夏休みが終わるという頃

突然君が言った
「もう会うの終わりにしようか」

彼女の急な言葉に思考が停止する
「終わりってどうゆう事?」

「実はね君と初めて会った時に、私、死のうとしてたの」

僕は言葉が出ないほどに動揺していた

「君と会ってから毎日が楽しくて死ぬのもやめにしようかなって思ったこともあった」

「でもね、やっぱりここは物語の中じゃなかったの」

「君と出会ってからも空白は無くならないまま」
「所詮人間は1人なの。出会ったのが君でも君じゃなくてもこれは変わらない」

僕は大きな勘違いをしていた
僕達は同じ気持ちだと
これからもっと仲良くなって

「今まで君とあった綺麗な思い出で、綺麗な私のままで終わりたいの」

「僕は君に生きてて欲しい」
「僕と一緒に生きて欲しんだ!」

君は泣きながら言った
「ごめんね。ありがとう。」

「じゃあ行くね」
君が海の向こうへと歩き出す

僕は走って君の手を掴む
「本当に行くのか?」

「うん。」
潤みながらも真っ直ぐな目で言う

「分かった。なら僕も行くよ」

「え?」
彼女は驚いた顔をしている

「君と出会ってから初めて幸せだって感じれたんだ。僕の人生に君が居ないと意味が無いんだよ。」

「本当に?」
目に涙をためながら彼女は言う

「本当だよ。だからさ、あの日僕に声をかけてくれてありがとう」

彼女は震えた声で"ありがとう"と言った

僕は彼女の頭をそっと撫でる

「手を繋いでいこう」
僕はそう言って彼女の手をとる

僕らはゆっくりと海の向こうへと進んでいく
君と海に沈んでいく
海の中なのに君が泣いてる気がした

(君の空白を僕はどのくらい埋めれた?)
そんな言葉を飲み込んで僕は
彼女の手をぎゅっと握る
それに答えるように君が握り返す

意識が薄れていきながらも
走馬灯のように彼女との思い出が頭に流れてくる
思い出すのは笑顔の彼女ばかりで
最後まで僕は幸せ者だと思った

君の暇つぶしにでもなれてたならいいな






僕の空白はもう君でいっぱいだったよ