「おはよ」


 次の日、私は自分から瀬名くんに挨拶をした。

 普段は瀬名くんから挨拶してくれるからか、瀬名くんは一瞬驚いたような表情をした。
 そして視線を軽くそらして、挨拶を返す。


「・・・・ん、おはよ」



 告白は昨日、まだ返事はもらってない。
 そんな状態だから、今日はどう接すべきか悩んだ。

 だけど私以上に、瀬名くんのほうが私との距離感を計りかねているに違いない。

 そう思い、自分から挨拶することに決めた。
 そして挨拶と授業中の必要最低限の会話以外はしないことに決めた。

 変に話しかけて、返事を催促しているふうになってしまうのは望まぬ事態だ。


「・・・あの、さ」

「!」


 そんなことを考えていた矢先、瀬名くんから話しかけてきた。


「昨日の返事、なんだけど・・・、時間・・・かかる、かも・・・」


 瀬名くんが視線をあわさないまま、言いづらそうにそう伝えてきた。

 チカラさんからも、告白の返事を急かさず待つよう頼まれていることだし、それはこちらとしてもそのつもりだ。


「大丈夫。むしろちゃんと考えてくれるほうが嬉しいから。気にしないで」

「・・・・ん、ありがとう」


 瀬名くんが少しだけほっと息をついた。


「返事まだだけど、どちらにせよ今まで通り接するから。心配しないでね」


 瀬名くんは少しためらいがちに、私の言葉に頷いた。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってくる。


「はい、席着けー。今週末から冬休みだからな、冬休みの宿題配るぞー」


 先生の言葉で、みんながすぐに宿題の量を確認しようと席に着きだす。

 私も前から回ってきたプリントに目を通す。


(そうか・・・今週末から冬休み、か・・・)


 本当にあっという間だ。
 もう二学期終了か。

 うちの学校の冬休みは二週間ほどしかないので、たぶんこれもあっという間に終わるだろう。

 そんなことを考えつつ、朝のHRを終え、一時間目の準備にとりかかる。
 するとそんな私の前に、凛がやってきた。


「あーかりっ!もうすぐクリスマスだねぇ!」

「あー・・・そっか、そうだね」


 25日は冬休み入った直後だ。

 ちなみに・・・、クリスマスイブもよく凛の家と合同で過ごすことがある。
 つまりそれはまあ・・・海くんとも、顔を合わせる可能性があるってことで。

 私の複雑そうな表情に気づいたのか、凛が口を挟む。


「あっ大丈夫!今年は海、友達と過ごすってさー!」

「・・・そう、なんだ・・・」


 安心したような・・・さみしいような・・・。
 やっぱり、想像していた通り、もう海くんと関わる機会は減っていくのかもしれない。

 にしても、もしかしてとは思っていたけど、振られたことまでお姉ちゃんに報告したのか・・・海くん・・・。


(まあちゃんと報告しなきゃ永遠にいじってきそうだもんねぇ、凛は・・・)


 そう思いながら目の前の凜に視線をやる。
 凛は不思議そうに首を傾げた。


「でさー、そのことうちの両親が聞いてさ、あたしかあかりが他の予定があるなら今年は二つの家合同総出で集まるのはなしにしようってなっててー」

「他の予定?それは特にな————」


 ない、と言いかけて言葉を止めた。


(・・・そういえば)


 顔は動かさず、ちらりと隣の席を見やった。


(瀬名くんは・・・クリスマスイブ、予定あるのかな)


 まあ普通に考えれば何かしら予定があるに違いない。

 あの瀬名くんだ。
 みんな放ってはおかないだろう。

 けど、もしも、もしもだ。

 もしも誰のことも特別扱いしないためとか、そんな感じの理由で誰との予定も入れてなかったとしたら・・・。


(・・・もしもそうなら・・・、誘ったら会ってくれたりする、かな・・・)


 そう思いかけて頭をふる。


(いやいやいやっ!そんなの返事催促してるのと同じようなもんじゃんっ!)


 私は少し考えたあと、口を開く。


「・・・勉強会のメンバーとかで、集まれたりしないかな?」

「それいいねっ!」


 凛はぱあっと顔を明るくした。


「音央たち誘ってみよっ!」


 言うが早いか、凛はみんなをまわり、予定を確認しだす。
 そして戻って来ると、ののちゃんは彼と過ごすとのことだが、音央ちゃんと愛架ちゃんは問題ないとのこと。


「あとは瀬名くんだね、まー瀬名くんは予定埋まってそうな気もするけどっ」


 凛はそう言ってまた、言うが早いか隣を向いた。


「瀬名くんっ!クリスマスイブ空いてるー?」

「ん・・・・なんで?」


 瀬名くんは少し言葉に詰まった。
 もしかしたら、やっぱり予定が入っているのかも。


「無理ならいいんだけどー、勉強会のメンバーで集まろーって思ってて!」

「勉強会のメンバー・・・」


 瀬名くんの視線が、一瞬私に注がれる。


「・・・あかりちゃんも行くの?」

「えっ、あ、うん・・・」


 もしかして、私がいるから行きたくない・・・とかだろうか。

 もちろん未だ告白を保留にした状態なわけだし、気まずくないと言えば嘘になるけど・・・。


(・・・私は・・・瀬名くんと過ごしたい、んだけどな・・・)


 やっぱり余計だっただろうか。
 クリスマス過ごしたいなんて、迷惑だっただろうか。


「・・・大丈夫、行けるよ」

「えっほんと!?」


 思わぬ瀬名くんの返事に、凛も驚きの声を上げた。
 私もびっくりして思わず瀬名くんを見る。


「瀬名くんはてっきり予定入ってるかと・・・!」

「あはは、大丈夫だよ。楽しみにしてるね」

「こっちこそっ!よっし、音央と愛架にも伝えてくるー!」


 凛は気合十分で腕まくりすると、さっそくまたみんなのもとをまわる。



「・・・あかりちゃん、いいの?」

「へ?」


 突然話しかけてきた瀬名くんの方を見やる。

 何が「いいの?」なんだろう。


「だって・・・俺といっしょじゃ気まずいかなって・・・」

「えっ!?全然気にしてない・・・っていうかむしろいっしょに過ごしたい・・・けど・・・」

「・・・!あ、そ、うなんだ・・・」


 瀬名くんが少し顔を赤らめた。


「・・・返事、できてないのに、クリスマスはいっしょに過ごすとか・・・都合よくてごめん」

「ううんっ。むしろ返事まだなのに誘うとか迷惑かなって思ってたけど、そう言ってもらえて安心した」

「・・・・ありがと」


 瀬名くんは小さくお礼を言った。
 そこでちょうど凛が戻ってきたので、私と瀬名くんの会話は終わった。