瀬名くんの家までは、永遠に道が続くような気もするし、かといって着いてみるとあっけなくたどりついてしまったような気もするし。
もう走っている間は緊張でどうにかなりそうだった。
でも夜だから・・・私は傘をささないで済んだ。
こんなに全力で外を駆けたのは、いつぶりだろう。
夜だから、夜の間だけは・・・私は気持ちの走るままに、走ることができた。
「・・・っ」
私は瀬名くんの家の前に立って、インターフォンへ指を伸ばす。
しかし押すぎりぎりで、ためらいの気持ちが邪魔をする。
言えるのかな?言っちゃっていいのかな?
私の中の不安が・・・言いようもなくふくらんでいく。
(・・・音央ちゃんも・・・こんな気持ちだったのかな・・・)
私の中でそんな思いがよぎった瞬間、もう迷わずインターフォンを押した。
そうだ。私は音央ちゃんに、背中をたたいてもらったんだから、って。
『お、あかりちゃん、今出るねー』
「!」
インターフォン越しに瀬名くんの声が聞こえた瞬間、我に返る。
(わっ!私・・・髪!!!)
走ってきたせいで髪がとんでもなく乱れていることに、やっと思い至った。
瀬名くんの足音が近づいてくるのにせかされつつ、慌てて髪を撫でつける。
(ど・・・、どうしよ・・・もうメイクも落ちかけてるし、髪も乱れてるし・・・・)
やばい、今日言うべきじゃない気がしてきた。
告白というからにはちゃんと身だしなみを整えるべきだった。
というかこれまで瀬名くんに告白してきた子はみんなそうしていたはずだ。
こんな朝から夜まで遊び倒した一日終わりの格好で告白するのなんてきっと私ぐらいだ。
(やばいやばいやばー―――――)
ひたすらに焦る私だったが、無情にも扉は開かれた。
「お待たせあかりちゃん」
「っ!」
ど、どうしよう。
まともに瀬名くんの顔が見れない。
最悪なコンディションの自分が見られているという恥ずかしさと、これから告白をするという緊張で、私は瀬名くんに視線を向けられなかった。
「どしたん?」
そんな私に違和感を抱いたのか、瀬名くんは私をのぞきこんできた。
「だ、だだだめっ!!」
私は一歩後ずさる。
(メイク崩れかけてんのに近づかないでっ!!ここまで崩れたメイクなんてすっぴんよりありえないからっ!!)
心の中で必死に叫んだ。
「えーっと・・・そ、その反応は若干傷つくんだけど・・・」
瀬名くんが苦笑交じりにそう言った。
確かに・・・今思えば後ずさるのはやりすぎだった。
「ご・・・ごめん・・・ちょっと・・・メイクが崩れてたから・・・」
「え?あ、そういうこと」
瀬名くんはふっと笑った。
あ、だめだ。これ。
恋は自覚したらだめなやつだ。
笑う瀬名くんの顔がまともに見れない。
「んで、どしたん?あかりちゃん、こんな時間に」
「・・・・あの」
・・・なんて言えばいいの!?
なんであの走っている間になんて言うか考えておかないの!?
自分が間抜けすぎて卒倒しそうだ。
けど、そんな場合じゃない。
「せっ・・・・」
「うん」
瀬名くんのことが好きです、は直球すぎ・・・?
「わ・・・っ」
「うん」
私と付き合ってください、はもっと直球か・・・。
「わたっ・・・」
「うん」
私たちが出会ってからそろそろ一年だね、はちょっと意味わからんか・・・。
なんて言えばいいかわからず、私は口をパクパクさせる。
「・・・ほ、ほんとにどうしたの?あかりちゃん・・・」
瀬名くんがさすがに戸惑った感じでそう尋ねてきた。
焦っていると、さらに後ろから声をかけられた。
「九鬼さん?」
「あ、きょーちゃん」
振り返ると、チカラさんが立っていた。
コンビニ帰りなのか、ビニール袋を片手に下げている。
「こんな時間にどうした?何かトラブルか?」
さすがに夜も遅いので、チカラさんは私が何かトラブルがあって瀬名くんと話しているのではないかと心配してくれた。
「なんかあかりちゃんが急に電話してきて・・・俺もなんの用なのかさっぱり」
「そうか。何かあったのか?九鬼さん」
心配そうに二人して私をうかがう。
こ、この時間に来たのはやっぱり間違いだったんじゃ・・・、と青ざめる。
「えと・・・っ、あ、あの・・・その・・・・」
青ざめつつなんというべきかひたすら困り果てる私に、二人も不思議そうに顔を見合わせる。
「・・・なんか九鬼さん顔色悪いが大丈夫か?」
「ほんとだ、なんかちょっと青ざめてる・・・」
二人して余計に心配そうな表情になる。
そんな心からの心配を向けられると余計青ざめそうだからやめてもらいたい。
「あかりちゃんなんかトラブったとかならほんと遠慮なくいってもらって―――――」
「こっ!!告白しに来たんですっ!!」
「――――――ん?」
いやもうこれは。
情緒も欠片もないけれど、これ以上無用に心配させるわけにもいかず。
私は告白する前に、「告白しに来た」というすでに告白のような言葉を放ってしまった。
「ト、トトトラブルとかじゃなくてっ!!せせ、せなくんにこ、ここ、告白しに来ました!!」
「九鬼さん落ち着け・・・っ」
後ろからチカラさんがそう小声で叫んだ。
「お、俺は立ち去るから・・・っ、と、とにかく落ち着―――――」
「す、すっ好きです!から、付き合ってほしいでしっ!!」
「噛んだ・・・っ」
焦りすぎてチカラさんの忠告も耳に入らず、私は見切り発車のまま告白してしまった。
ああもう・・・全然うまくいかない。
「・・・えっと」
瀬名くんは少し戸惑ったような表情をした。
そうだ、瀬名くんからしたらなんで?でしかない。
ちゃんとある程度経緯を説明しないと・・・!
「せっ・・・瀬名くんと、け、喧嘩したとき・・・・瀬名くんの隣に並べなくなるのほんとにつらかったし・・・!瀬名くんに笑いかけてもらえたとき・・・っ、ほ、ほんとにうれしいっ、せ、瀬名くんの言葉一つで一喜一憂して、瀬名くんのことばっか考えてる・・・っ!こ、恋とかよくわかんないしこれが恋がまだ自信はないけど・・・っ、これが恋だったらうれしいなって、そう強く思ってるのは変わりないから・・・!!」
告白は、目を見なくちゃ。
海くんだって、そうしてくれたでしょ?
私の想い・・・届けるなら、目を見なくちゃ。
私は恥ずかしさを振り切って、死ぬ気で瀬名くんの瞳を見た。
「!」
私と目が合った瞬間、瀬名くんは驚いたように目を見開いた。
そして少し動揺したように、私の視線から逃れるように、視線を下げる。
「おっ・・・おねがいします・・・っ」
私はなんと締めればいいかわからず、焦ってそんな言葉とともにお辞儀をした。
「・・・・えと」
瀬名くんの声が、頭上から振ってくる。
戸惑いを含んだ声。
「・・・か、顔・・・、あげて」
私は言われた通り、頭をあげる。
その瞬間に見えた瀬名くんの表情は・・・切なそうな、苦しそうな表情をしていて。
何かを言おうと口を開きかけたけど、視線をそらして口を閉ざす。
「・・・・」
「・・・・」
なかなか話し出さない瀬名くん。
何分経っただろう。
ものすごい時間がたったような気もするし、一瞬のような気もする。
「・・・水を差すようで悪いが」
後ろから、おずおずときまり悪そうにチカラさんが口をはさんだ。
「・・・流れで全部聞いてしまってすまない・・・、涼我、決められないなら後日答えるでいい。もう夜も遅い。これ以上九鬼さんを待たせるな」
チカラさんがそう言うってことは、たぶん結構な時間が経過したのだろう。
「・・・ん」
瀬名くんは小さくうなずいて、一瞬だけ私に視線を向けてきた。
「・・・ちゃんと、答え・・・決めて伝える・・・から。まだ・・・待っててほしい」
「・・・・うん」
振るなら振ってほしい。
そんな気持ちがないではないが、それを素直に言えるほど、私は音央ちゃんみたいに強くなかった。
瀬名くんに別れを告げ、瀬名くんが扉を閉めたのを確認して、大きく息をついた。
「はーっ!!」
「・・・お疲れ様」
「はっ!すみませんチカラさん!!」
突然緊張から解き放たれたせいで、チカラさんの存在をすっかり忘れて大きなため息をついていた。
「いや、こちらこそ告白を聞いてしまって・・・いや、もう・・・本当に申し訳ない・・・」
面目ない、といった感じでチカラさんが申し訳なさげに謝ってきた。
「いっ!いえいえっ!チカラさんのせいじゃ・・・!と、というかむしろあのままじゃずっと言えなかったんで、逆によかったです・・・」
「そうか・・・とにかくもう夜も遅い、よければ送って行こう」
そう言った後、チカラさんはふと足を止める。
「・・・いや、この場合送るのはなし・・・か?」
「へ?」
「だってつい先ほど涼我に告白していたのに・・・俺が送ってしまっていいのか、と・・・」
「そ、それは全然お気になさらずっ!まだ付き合ってないし・・・っていうか付き合えるとは思ってないしっ!」
私の言葉に、チカラさんが首を振る。
「いや、涼我は九鬼さんのことが好きだと思うぞ」
「・・・そ、そんなわけ・・・」
「・・・まあ、付き合うかどうかわからないっていうのは、そうなんだがな・・・」
「・・・?」
好きだと思う・・・のに、付き合うかどうかわからない・・・?
好きかわからないから付き合うかわからないのがふつうなんじゃないだろうか・・・。
不思議そうに首をひねる私に、チカラさんは、少し困ったような笑みを見せた。
「いろいろあってな・・・俺としては九鬼さんと涼我はうまく行ってほしいと思っているところだし・・・、少しだけ、俺から伝えておこうか」
「?」
「涼我の、過去のこと」
瀬名くんの・・・過去?
チカラさんに、音央ちゃんに。
高校以前の瀬名くんを知る人は普通にいて。
そんな話すべき大きな過去が存在するなんて・・・私は思いもしていなかった。
「せっかくだから、歩きながら話そう」
そう誘ってきたチカラさんの表情は、少しだけ悲しそうだった。
もう走っている間は緊張でどうにかなりそうだった。
でも夜だから・・・私は傘をささないで済んだ。
こんなに全力で外を駆けたのは、いつぶりだろう。
夜だから、夜の間だけは・・・私は気持ちの走るままに、走ることができた。
「・・・っ」
私は瀬名くんの家の前に立って、インターフォンへ指を伸ばす。
しかし押すぎりぎりで、ためらいの気持ちが邪魔をする。
言えるのかな?言っちゃっていいのかな?
私の中の不安が・・・言いようもなくふくらんでいく。
(・・・音央ちゃんも・・・こんな気持ちだったのかな・・・)
私の中でそんな思いがよぎった瞬間、もう迷わずインターフォンを押した。
そうだ。私は音央ちゃんに、背中をたたいてもらったんだから、って。
『お、あかりちゃん、今出るねー』
「!」
インターフォン越しに瀬名くんの声が聞こえた瞬間、我に返る。
(わっ!私・・・髪!!!)
走ってきたせいで髪がとんでもなく乱れていることに、やっと思い至った。
瀬名くんの足音が近づいてくるのにせかされつつ、慌てて髪を撫でつける。
(ど・・・、どうしよ・・・もうメイクも落ちかけてるし、髪も乱れてるし・・・・)
やばい、今日言うべきじゃない気がしてきた。
告白というからにはちゃんと身だしなみを整えるべきだった。
というかこれまで瀬名くんに告白してきた子はみんなそうしていたはずだ。
こんな朝から夜まで遊び倒した一日終わりの格好で告白するのなんてきっと私ぐらいだ。
(やばいやばいやばー―――――)
ひたすらに焦る私だったが、無情にも扉は開かれた。
「お待たせあかりちゃん」
「っ!」
ど、どうしよう。
まともに瀬名くんの顔が見れない。
最悪なコンディションの自分が見られているという恥ずかしさと、これから告白をするという緊張で、私は瀬名くんに視線を向けられなかった。
「どしたん?」
そんな私に違和感を抱いたのか、瀬名くんは私をのぞきこんできた。
「だ、だだだめっ!!」
私は一歩後ずさる。
(メイク崩れかけてんのに近づかないでっ!!ここまで崩れたメイクなんてすっぴんよりありえないからっ!!)
心の中で必死に叫んだ。
「えーっと・・・そ、その反応は若干傷つくんだけど・・・」
瀬名くんが苦笑交じりにそう言った。
確かに・・・今思えば後ずさるのはやりすぎだった。
「ご・・・ごめん・・・ちょっと・・・メイクが崩れてたから・・・」
「え?あ、そういうこと」
瀬名くんはふっと笑った。
あ、だめだ。これ。
恋は自覚したらだめなやつだ。
笑う瀬名くんの顔がまともに見れない。
「んで、どしたん?あかりちゃん、こんな時間に」
「・・・・あの」
・・・なんて言えばいいの!?
なんであの走っている間になんて言うか考えておかないの!?
自分が間抜けすぎて卒倒しそうだ。
けど、そんな場合じゃない。
「せっ・・・・」
「うん」
瀬名くんのことが好きです、は直球すぎ・・・?
「わ・・・っ」
「うん」
私と付き合ってください、はもっと直球か・・・。
「わたっ・・・」
「うん」
私たちが出会ってからそろそろ一年だね、はちょっと意味わからんか・・・。
なんて言えばいいかわからず、私は口をパクパクさせる。
「・・・ほ、ほんとにどうしたの?あかりちゃん・・・」
瀬名くんがさすがに戸惑った感じでそう尋ねてきた。
焦っていると、さらに後ろから声をかけられた。
「九鬼さん?」
「あ、きょーちゃん」
振り返ると、チカラさんが立っていた。
コンビニ帰りなのか、ビニール袋を片手に下げている。
「こんな時間にどうした?何かトラブルか?」
さすがに夜も遅いので、チカラさんは私が何かトラブルがあって瀬名くんと話しているのではないかと心配してくれた。
「なんかあかりちゃんが急に電話してきて・・・俺もなんの用なのかさっぱり」
「そうか。何かあったのか?九鬼さん」
心配そうに二人して私をうかがう。
こ、この時間に来たのはやっぱり間違いだったんじゃ・・・、と青ざめる。
「えと・・・っ、あ、あの・・・その・・・・」
青ざめつつなんというべきかひたすら困り果てる私に、二人も不思議そうに顔を見合わせる。
「・・・なんか九鬼さん顔色悪いが大丈夫か?」
「ほんとだ、なんかちょっと青ざめてる・・・」
二人して余計に心配そうな表情になる。
そんな心からの心配を向けられると余計青ざめそうだからやめてもらいたい。
「あかりちゃんなんかトラブったとかならほんと遠慮なくいってもらって―――――」
「こっ!!告白しに来たんですっ!!」
「――――――ん?」
いやもうこれは。
情緒も欠片もないけれど、これ以上無用に心配させるわけにもいかず。
私は告白する前に、「告白しに来た」というすでに告白のような言葉を放ってしまった。
「ト、トトトラブルとかじゃなくてっ!!せせ、せなくんにこ、ここ、告白しに来ました!!」
「九鬼さん落ち着け・・・っ」
後ろからチカラさんがそう小声で叫んだ。
「お、俺は立ち去るから・・・っ、と、とにかく落ち着―――――」
「す、すっ好きです!から、付き合ってほしいでしっ!!」
「噛んだ・・・っ」
焦りすぎてチカラさんの忠告も耳に入らず、私は見切り発車のまま告白してしまった。
ああもう・・・全然うまくいかない。
「・・・えっと」
瀬名くんは少し戸惑ったような表情をした。
そうだ、瀬名くんからしたらなんで?でしかない。
ちゃんとある程度経緯を説明しないと・・・!
「せっ・・・瀬名くんと、け、喧嘩したとき・・・・瀬名くんの隣に並べなくなるのほんとにつらかったし・・・!瀬名くんに笑いかけてもらえたとき・・・っ、ほ、ほんとにうれしいっ、せ、瀬名くんの言葉一つで一喜一憂して、瀬名くんのことばっか考えてる・・・っ!こ、恋とかよくわかんないしこれが恋がまだ自信はないけど・・・っ、これが恋だったらうれしいなって、そう強く思ってるのは変わりないから・・・!!」
告白は、目を見なくちゃ。
海くんだって、そうしてくれたでしょ?
私の想い・・・届けるなら、目を見なくちゃ。
私は恥ずかしさを振り切って、死ぬ気で瀬名くんの瞳を見た。
「!」
私と目が合った瞬間、瀬名くんは驚いたように目を見開いた。
そして少し動揺したように、私の視線から逃れるように、視線を下げる。
「おっ・・・おねがいします・・・っ」
私はなんと締めればいいかわからず、焦ってそんな言葉とともにお辞儀をした。
「・・・・えと」
瀬名くんの声が、頭上から振ってくる。
戸惑いを含んだ声。
「・・・か、顔・・・、あげて」
私は言われた通り、頭をあげる。
その瞬間に見えた瀬名くんの表情は・・・切なそうな、苦しそうな表情をしていて。
何かを言おうと口を開きかけたけど、視線をそらして口を閉ざす。
「・・・・」
「・・・・」
なかなか話し出さない瀬名くん。
何分経っただろう。
ものすごい時間がたったような気もするし、一瞬のような気もする。
「・・・水を差すようで悪いが」
後ろから、おずおずときまり悪そうにチカラさんが口をはさんだ。
「・・・流れで全部聞いてしまってすまない・・・、涼我、決められないなら後日答えるでいい。もう夜も遅い。これ以上九鬼さんを待たせるな」
チカラさんがそう言うってことは、たぶん結構な時間が経過したのだろう。
「・・・ん」
瀬名くんは小さくうなずいて、一瞬だけ私に視線を向けてきた。
「・・・ちゃんと、答え・・・決めて伝える・・・から。まだ・・・待っててほしい」
「・・・・うん」
振るなら振ってほしい。
そんな気持ちがないではないが、それを素直に言えるほど、私は音央ちゃんみたいに強くなかった。
瀬名くんに別れを告げ、瀬名くんが扉を閉めたのを確認して、大きく息をついた。
「はーっ!!」
「・・・お疲れ様」
「はっ!すみませんチカラさん!!」
突然緊張から解き放たれたせいで、チカラさんの存在をすっかり忘れて大きなため息をついていた。
「いや、こちらこそ告白を聞いてしまって・・・いや、もう・・・本当に申し訳ない・・・」
面目ない、といった感じでチカラさんが申し訳なさげに謝ってきた。
「いっ!いえいえっ!チカラさんのせいじゃ・・・!と、というかむしろあのままじゃずっと言えなかったんで、逆によかったです・・・」
「そうか・・・とにかくもう夜も遅い、よければ送って行こう」
そう言った後、チカラさんはふと足を止める。
「・・・いや、この場合送るのはなし・・・か?」
「へ?」
「だってつい先ほど涼我に告白していたのに・・・俺が送ってしまっていいのか、と・・・」
「そ、それは全然お気になさらずっ!まだ付き合ってないし・・・っていうか付き合えるとは思ってないしっ!」
私の言葉に、チカラさんが首を振る。
「いや、涼我は九鬼さんのことが好きだと思うぞ」
「・・・そ、そんなわけ・・・」
「・・・まあ、付き合うかどうかわからないっていうのは、そうなんだがな・・・」
「・・・?」
好きだと思う・・・のに、付き合うかどうかわからない・・・?
好きかわからないから付き合うかわからないのがふつうなんじゃないだろうか・・・。
不思議そうに首をひねる私に、チカラさんは、少し困ったような笑みを見せた。
「いろいろあってな・・・俺としては九鬼さんと涼我はうまく行ってほしいと思っているところだし・・・、少しだけ、俺から伝えておこうか」
「?」
「涼我の、過去のこと」
瀬名くんの・・・過去?
チカラさんに、音央ちゃんに。
高校以前の瀬名くんを知る人は普通にいて。
そんな話すべき大きな過去が存在するなんて・・・私は思いもしていなかった。
「せっかくだから、歩きながら話そう」
そう誘ってきたチカラさんの表情は、少しだけ悲しそうだった。