走る、走る。

 駆けていく気持ちに合わせて、もう息切れも、髪の乱れも気にせず、私は全力で走った。


(今・・・!今、言いたい!!)


 今言いたい。

 私の覚悟が、私の気持ちが、消えてしまう前に。
 音央ちゃんからもらった気持ちが、途切れてしまう前に。

 そうやって走って探し回っていたけれど、瀬名くんは見つからない。


「・・・・そうだ、電話すれば・・・っ」


 私は急いでスマホを取り出し、急ぎ瀬名くんにかける。
 コール音が鳴るが・・・なかなか瀬名くんは出ない。


「・・・・っ」


 普段なら一瞬なのに、ワンコールが異様に長く感じた。

 じれったさで唇を噛んだ瞬間、コール音がやんだ。
 そして。


『もしもし・・・あかりちゃん?』


 電話越しに・・・瀬名くんの声が聞こえた。

 その瞬間、私の覚悟が消えそうになる。


(・・・~~~っ!だめだめっ!!言うって決めたでしょっ!!)


 どうにか自分を奮い立たせ、口を開く。


「あ・・・あー・・・、せ、瀬名くん・・・もう帰っちゃった・・・?」

「いや今帰ってる途中。えっとー・・・あ、市役所のあたり」


 市役所のあたりというと・・・もう数分で瀬名くんの家に着こうかというあたりだ。


(どうするべき・・・?追いかける?電話で行っちゃう?それとも・・・明日にする?)


 そう思ったが、頭を振る。

 明日じゃだめだ。
 明日にはもう、きっとこの覚悟は消えてしまうだろう。


「・・・・せ!瀬名くんっ!!」

『ん?』

「・・・・今そっちに向かうからっ!あ!じゃ、じゃなくて・・・っ、そう、瀬名くん家向かうからそのまま帰ってて大丈夫なんだけどっ!あっ、でもちょっと話すだけだからっ!!家は上がんない!」


 テンパりすぎて情報が交錯してしまった。
 けど瀬名くんは不思議そうにしながらも、了承してくれた。


『ん、じゃあ家で待ってるから』

「・・・はい」


 心が、折れそう。

 学校で一番のイケメンで、一番モテる人に、これから告白しにいくわけだ・・・。
 もう戦場に向かう戦士と同じ気分だ。

 いける気がしないけど、行くしかない。
 覚悟、決めるしかない。

 逃げたいけど、逃げちゃだめだ。


「・・・っよし!」


 私は自分の頬をたたくと、また全力で駆けだした。
 折れそうになる自分を奮い立たせながら。