イルミネーションが点灯すると、公園は打って変わって神秘的な世界になった。


「きれい・・・」


 イルミネーションを見上げていると、海くんが近づいてきた。


「こっからは・・・あの、・・・ふ、二人きりが、いいです」

「!」

「・・・いいですか・・・?」

「・・・うん」


 私は音央ちゃんの背中をじっと見つめて、もう一度心の中でエールを投げかけた後、海くんと歩き出した。


「・・・あの・・・、ちゃんと楽しかったですか?」

「うん。とっても」

「よかったです・・・」


 海くんは妙にそわそわしていて、緊張した面持ちでいる。


「・・・俺も、今日・・・すっごい、うれしいことばっかでした・・・」

「うん」

「水族館は感動したし、お昼ご飯おいしかったし、映画も普通に面白かったし、イルミネーションもきれいだし」

「だね。ほんと、濃い一日だね」

「・・・でも」


 海くんは前を向いたまま、目を輝かせて話す。


「一番うれしかったのは、あかりさんの隣歩けたことです」

「!」

「弟としてとか、そんなんじゃなくて・・・ちゃんとあかりさんの隣、手をつないで歩けたことが、一番うれしかったです」


 海くんはそこで歩くのをやめた。

 私もそれに気づいて歩みを止める。


「・・・ほんとは、ちゃんと二人で今日のこと話してからとか、いろいろ思い出話してからとか思ったんですけど・・・うまくできそうにないのでやめます」

「?」

「ちゃんと、正々堂々、告白します」


 海くんが、真っ赤になりながら・・・・それでも視線をそらさずに、口を開いた。


「俺っ・・・あかりさんのことが好きです・・・!初めて気づいたのは五歳のときで、そっからずっと、あなただけを見てきました」

「・・・・!」


「まだ頼りないし、正直弟感ぬぐい切れてないかもしれないけど・・・でも、もっとあかりさんに追いつけるよう、いっぱい努力します」


 海くんの、想いが・・・私の中に、あふれこんでくる。


「だから・・・そばにいてほしいです。そばにいて、俺が追いつくとこ、待っててほしいです。だから・・・・その・・・」


 海くんは大きく息を吸った。


「つっ・・・付き合ってください・・・」


 私は彼の想いがまっすぐすぎて・・・思わず、下を向いた。

 応えられるものなら、彼の想いに応えたい。
 だけど・・・同情で付き合うのは、彼に失礼だ。

 私だって海くんのことが大切だし、できることならずっといっしょにいたい。

 でもそれは・・・恋心じゃない。


(・・・海くん・・・でも、あなたを傷つけたく、ない・・・)


 海くんに対する思いが恋心じゃなくても、彼が大切なのは変わらない。

 傷つけたくない。
 傷ついてほしくない。

 私は唇を噛んだ。


「・・・俺、あかりさんに会えてよかったって思います」

「・・・え・・・?」


 急な海くんの話に、私はつい顔をあげた。

 海くんは・・・とびっきり、優しいまなざしをしていた。


「姉ちゃんに怒られたとき守ってくれたのはいつもあかりさんだし、同級生に悪口言われたっていったらいつも相談乗ってくれたし、学校行きたくない日はいっしょに登校してくれたし」

「・・・うん」

「あかりさんに恋して、追いつきたいって思って苦手なことにも挑戦するようになったし、れ、恋愛相談・・・とかで姉ちゃんともよく話すようになったし・・・」

「・・・うん」

「あかりさんと付き合えなくても・・・あかりさんに出会って、あかりさんに恋をしたこと、無駄じゃないって胸を張って言えます」

「・・・・っうん・・・」


 海くん、わかっているんだ・・・。

 私が、海くんに抱いているのが・・・恋心じゃないってこと。

 だからこうやって、私に逃げ道を提示してくれているんだ。
 自分で自分の告白の逃げ道を示すことって・・・どれだけ、苦しいことだろう。


(・・・だけど、それにのっかるだけじゃだめだ)


 苦しんで、悩んで、そのうえで告白してきてくれた。

 だから、私も苦しさから逃れちゃだめだ。
 覚悟をもって、答えなければ。


「ごめんなさい」


 私は真正面から、そう答えて、頭を下げた。


「・・・・海くんが本気でぶつかってくれたから、私も本気で答える」

「・・・はい」

「いろいろ考えてみたけど・・・やっぱり海くんのこと、恋愛対象として見れない、です」

「・・・・・っ」


 海くんは顔をゆがめたけど、涙をこらえるように笑った。


「・・・・うん、知ってる」

「・・・・」


 大きく、息を吸ってはいた。


「・・・最後に、一回だけ・・・呼び捨てで呼んでもらっても、いいですか?」

「・・・わかった」


 最後・・・・。
 その響きに、胸が押しつぶされそうな気がした。


「・・・か・・・・」


 声を出せば・・・涙が、出そうだった。

 でもだめ。
 私が泣くなんて、そんなのありえない。


「・・・・海っ」


 涙をこぼすまいと、叫ぶように彼の名前を呼んだ。

 見上げると、海くんは泣きながら笑っていて・・・。


「・・・今までありがとう、あかりさん」


 そう言って、彼は振り返ることなく、走り去って行った。