映画が終わって映画館を出ると、かなり日が沈んでいた。


「やっぱ冬は暗くなるのが早いねーっ!・・・ってことで、次に行きたいのが!!」


 音央ちゃんはハイテンションで次の行き先を教えてくれた。


「ふれあい公園!!この時期になるとイルミネーションがやってるの!」

「あ、それって」


 瀬名くんが音央ちゃんの言葉に反応した。


「そっ!うちらが三年前、初めて会ったとこ!!」


 そうか、その公園は二人にとっての思い出の場所なんだ。

 海くんが、お互いの思い出の場所を取り入れたって言ってたから、きっと音央ちゃんはその公園を提案したんだろう。


 三年前・・・ってことは・・・。
 私たちが中一のとき、だ。


(そんなときから、音央ちゃんと瀬名くんは知り合ってるんだ・・・)


 私の知らない、昔の瀬名くん。

 私はこの一年の瀬名くんしか知らない。
 この一年、いろんな瀬名くんを見てきたけれど、それはあくまで高校一年生の瀬名くんでしかないわけで。

 きっと、小学生のときには小学生の瀬名くんが、中学生のときには中学生の瀬名くんがいて・・・私は、それを知らないんだ。

 そう思うと、なんだか自分と瀬名くんとの距離が、突然果てしなく感じた。


「ただ・・・・、点灯が18時からってことで・・・まだあと30分以上あるんだよね・・・」


 音央ちゃんは言いにくそうにそう話すが、あと30分なら話していればあっという間に過ぎそうだ。


「そっか、それなら俺らが外で待機してるから、音央ちゃんとあかりちゃんは中で待ってなよ。点灯したら連絡するし」

「はぁ?なんで俺がお前と・・・」


 またも瀬名くんをにらむ海くんだったが、瀬名くんは軽く海くんの肩をたたいた。


「バカ、女の子は寒がりなの。中で待たせてあげなきゃでしょ」

「うっ・・・・・・わかったよ・・・」


 瀬名くんの一言で海くんは納得すると、しぶしぶ立ち上がって去って行った。

 私と音央ちゃんは、お言葉に甘えて室内で待たせてもらう。


「・・・・ね、あかり」

「ん?」


 音央ちゃんは緊張した面持ちで切り出してきた。


「・・・わたし、私・・・・、こ、告白とか無理かも・・・まじ、今緊張で死にそう・・・」

「!」


 さっきまで元気いっぱいだった音央ちゃんとは一転し、突然弱気になる。
 もしかしたら、瀬名くんの前では気丈にふるまっていたのかもしれない。


「どうしたらいいかな・・・きょ、今日ここに来るまではこうやって言おうとか、こうやって話そうとか・・・いっぱいいろんなこと考えて、いっぱいシュミレーションしたのに・・・今になるともう、なんて言えばいいか、わかんない・・・」


 音央ちゃんは少しだけ目に涙を浮かべていて。

 それを見るともう、私の気持ちなんて気にしている暇はなかった。

 音央ちゃんを、励まさなければ。
 たとえ私が瀬名くんを好きなのだとしても・・・私はそれ以前に、音央ちゃんの友達だから。


「大丈夫・・・っ!音央ちゃんなら大丈夫!!」

「あかり・・・」

「今日のデート、いろんなところに気づかいがあって、音央ちゃんらしいなぁって思った。きっと、瀬名くんだってそう思ってるよ!」


 なんて励ますのがいいのか、私にはわからない。

 でも・・・何か言わなきゃ。

 音央ちゃんが、告白に迷ったとき、想いを伝えるかためらったとき、背中を支える言葉を、渡してあげたい。


「音央ちゃんが、どれだけ瀬名くんのためにがんばったか、精いっぱいの気持ち、絶対瀬名くんも感じてる!だから告白は、しょせんきっかけに過ぎない、と、思う・・・!」

「きっかけ・・・」

「そう!きっと、言葉足らずでも、うまい告白じゃなくても、瀬名くんに伝えるの。それだけできっと十分だから!だってもう、今日一日かけて、音央ちゃんが気持ちがどれだけ大きいかは伝わってるんだもん!」


 私の励ましこそ、言葉足らずでうまい励ましとは言えないものだったけど、音央ちゃんは、少しだけ表情を緩めた。


「・・・うん、今のあかり見てたら・・・・確かにそうだなって、思った・・・」

「え、私?」


 私の言葉を聞いてたら、じゃなくて、見てたら?


「あかりが、本当にまっすぐで、友達思いで、そんで私の恋を応援してくれてるって、今までの行動で知ってたから・・・だから今の励まし、めっちゃ心に届いたよ・・・」

「!」

「ありがとう・・・」


 音央ちゃんは、まだどことなく不安も見え隠れしていたけど、にっと笑って見せた。


「きっかけづくり、してくる!!」

「うんっ」


 私たちはお互いの顔を見合わせて笑った。

 これでいい。

 友達が笑っていてくれる・・・それだけで、十分幸せ。


「にしても、海くんと涼我はうまくやってるかなぁ・・・」

「今日一日、ずっとつんけんしてたもんねぇ・・・」


 私たちは、寒空の下明かりのともらないイルミネーションを眺めているであろう二人を思うと、心配でたまらなかった。