私と海くんは場所をうつし、中学校のそばの自販機で飲み物を買うと、自販機の横に腰かけた。

 ここなら人通りはほぼないので落ち着いて話せそうだ。


「それでね・・・えっと、先に聞いておきたいことがあって」

「・・・?」


 私は少しためらいつつ、意を決して話し出す。


「嫌なら嫌って言ってくれて構わないんだけど・・・その」


 私の中で、音央ちゃんの「お願い」が反芻した。


「私の友達が今週の土曜日に好きな人とデートするらしいんだけど・・・それを・・・ダブルデートにしないかって・・・相談をもちかけられてて・・・」

「・・・ダブルデート?」


 海くんの頭の上に?マークが浮かぶ。


「ようは・・・いっしょにデートしようっていう・・・ことです」


 説明を加えたけど、海くんはやはり不可解そうにしていた。


「えーっと・・・そ、それをするメリットはあるんですか・・・?」

「私の友達は緊張して会話が続かないからってことでお願いしてきたんだけど・・・、あ、でもほんと、海くんが嫌ならきちんと断るから。嫌なら嫌って言ってね?」

「そりゃどちらかと言えば・・・っていうか普通に嫌ですけど、あかりさんはそれでもいいんですか?」

「・・・・私・・・は」


 そりゃ・・・私だって諸手を挙げて受け入れられるわけはない。

 教室で音央ちゃんと瀬名くんが話しているだけでももやっとしているのに、隣でデートなんてされたら気になってしょうがない。

 でも協力するって言った手前、嫌だとは言えないし・・・。


「・・・まあ、嫌・・・ではないよ。そりゃしたいわけではないけど・・・・」

「・・・そうですか。お・・・、俺は普通にあかりさんと二人っきりがいいから嫌です・・・」

「そっ!?そ、そう・・・」


 突然さらっと好意を示されて、あからさまに動揺してしまった。


「しかも・・・たぶん俺の知らない人ですよね?むしろ向こうも気まずくないですか?」

「あー・・・音央ちゃんは、そう、だね。でもたぶん男の子のほうは知ってるよ。っていうか瀬名くん」

「・・・・え」


 海くんが驚いて目を見開いた。


「まあでも音央ちゃんと話したことないのは変わんないしね・・・、とりあえずこの話は断っておくからなかったことに――――――」

「ま、待ってくださいっ!」

「・・・ん、どうしたの?」


 海くんはしばらく考え込んだあと、まさかの答えを口にした。


「やっぱその話、受けましょう。俺は嫌じゃないです」

「・・・え!?」


 さっきまでとは一転、海くんは曇りなき眼でそう言った。


「な、なんで急に!?さっきまで嫌って・・・」

「その瀬名くんとやらが関わってんなら話は別です。受けましょう・・・いや、受けて立ちましょう・・・!」


 なんか・・海くんの背後に炎が燃えているような気がする。

 なぜかむしろ私以上にやる気満々になった海くんを、私はただ口をあげて見つめるほかなかった。