「終わったぁ~!!」


 期末テストの最後の科目が終わった瞬間、クラス全体の空気が一気に緩んだ。

 凜はすぐに私の席にやってくると、数学の問題用紙を見せてきた。


「大問3えぐくない!?」

「それねー・・・私も(2)までしか解けなかった」

「逆に(2)まで解けたの!?神じゃん!!私(1)も解けなかったんだけど!」

「・・・(1)の解法、先週解説したよね?」

「あ。あー・・・てへ☆」

「もう・・・」


 私が呆れたような表情をしたからか、凜はわざとらしく舌を出した。


「あかりちゃん」


 隣の席から、声がかかった。


「どうだった?」

「・・・ん、まあまあかな。英語と地理は自信ある。それ以外は微妙・・・。瀬名くんは?」


 私は瀬名くんの顔を見た。

 仲直りしてから数日たつけど、まだなんとなくむず痒い。
 少しだけ、瀬名くんと話すときに緊張してしまう。

 瀬名くんは仲直りした次の瞬間にはもういつも通り。
 今だって、よく見知った笑顔を変わらず浮かべている。


「地理いけたのすごいねー、範囲やばかったのに。俺は全体的に不安がのこるかな・・・」

「あはは、瀬名くんテスト期間中も忙しくしてたもんね」


 テスト期間中だからと言って彼の友人関係は停止しない。
 いつも別の友達に囲まれている姿を見かけた。


「あ、でも安心してよ。英語は絶対前回よりいい自信ある」


 そう言って笑みを深める瀬名くん。


「あかりちゃんが教えてくれたもんね」

「・・・それはよかった」

「まあ前回が赤点だったからあがったとて、なんだけどね」

「うん、持ち上げて落とすのやめて?」


 こうして瀬名くんとは無事雑談できるくらいに戻った。

 そこに、音央ちゃんが通りがかる。


「あかりー、テストお疲れーっ」

「音央ちゃんもお疲れ様」


 音央ちゃんはじっと私を見つめた。


「お願いのこと・・・よろしくね」

「・・・うん、わかってる」


 私と音央ちゃんの意味深な会話に、その場にいた残りの二人・・・瀬名くんと凜は不思議そうに顔を見合わせた。


「あかり、音央、お願いって?」

「ん?んー・・・」


 勝手に話すのはまずいかもと、私は音央ちゃんに視線を向けた。


「そうだなー・・・まあ二人ともたぶんそうなったらわかる、かな?」


 そう言って私に視線を返してくる音央ちゃん。

 確かに・・・言われてみれば音央ちゃんからのお願いを叶えたら、それを知ることができる二人だ。


「そうだね。そうなったらわかるね」

「そうそう」


 意味深に言い合う私たちに、凜と瀬名くんはまたも不思議そうに顔を見合わせるのだった。


 その日、私は部活があるという凜と別れ、一人で学校を出た。
 目指す先は家じゃない。

 高校から少し歩いたところにある・・・中学校だ。


(海くんも今日でテスト終わるって言ってたからもうすぐ出てくる・・・はず)


 凜に確認した感じおそらく時間的には会えるはずだが、連絡もなしに来てしまったので会えない可能性もぬぐい切れない。

 まあそのときはそのときだ。電話か何かで連絡を取ればいい話。

 私は校門にもたれかかって、海くんが出てくるのを待った。


「・・・でさー、社会の宿題結局終わんなくてー」
「それはえぐい」

「明日から部活かー、だるぅ・・・」
「それなー」

「このまま遊び行こー!」
「いいね!」


 ちらほらと生徒が見え始めたかと思うと、数分もするとどんどん生徒が帰り始めた。


(だいたいのクラスが終わったのかな・・・なら海くんももうすぐ出てくるかも・・・)


 そう思ってあたりを見渡すと、ちょうど海くんが下足場から出てくるのが目に入った。

 私は海くんに手を振ってみた。
 けど気づかない。

 そこでもう一度手を振ってみた。
 けどやっぱり気づかない。

 と、思ったら海くんといっしょに出てきた友達が、私のほうを見て何かを話し出した。
 高校生がいる、とかそういう話かもしれない。

 そしてそれにつられてこっちを見て・・・・。


「!!」


 海くんが面食らったような表情になった。

 そしていっしょにいた友達に何かを言い残すと、全速力で駆け寄ってきた。


「え!?え、え!?あかりさん!?っな、なんでここに!?」


 海くんは第一声、ものすごく取り乱しつつそう言ってきた。


「デートのことで、話したいことがあって。ほんとは電話か何かにしようと思ったんだけど・・・・、前回あんなこと言ってくれてた手前、電話で済ませちゃうのはちょっと心苦しいなって思って」


 海くんが前回会いたいから次も直接話に来る、と言っていたことを思い出し、私も直接話に来たのだ。


「そっ、そうなんすね・・・あ、あの、でも中学校には来ちゃだめ、です」

「えっ、どうして?」

「だ、だってあいつら・・・なんかあかりさんのこと・・・かわいい・・・とかなんとか言ってたし・・・、とにかくダメです」


 あいつら、っていうのはいっしょに出てきた友達のことだろうか・・・?
 海くんはとにかく早く中学校から離れたそうだったので、私は深くは追及せず話を変えた。


「・・・あー、そっか、ごめんね。じゃあとりあえず場所変える?」

「・・・うす」